日野恭介 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)研究員、戸口田淳也 同教授、池谷真 同准教授らの研究グループは、FOP(進行性骨化性線維異形成症)患者由来のiPS細胞を使い、FOPの異所性骨形成のメカニズムを解明し、治療薬候補を見出しました。
本研究成果は、2017年8月1日に米国の科学誌「The Journal of Clinical Investigation」で公開されました。
研究者からのコメント
患者さん由来のiPS細胞を使って、FOPで異所性骨ができるメカニズムを解明することができました。この成果を元にFOPに対する治験の計画も進められています。多くの方々に支えられて漸くここまでたどり着きました。感謝しています。今後、iPS細胞を使った創薬研究が様々な難病で進められることを期待しています。
本研究成果のポイント
- 本研究グループらの先行研究により、アクチビンA(TGF-β(Transforming Growth Factor β;トランスフォーミング増殖因子β)ファミリーに属するタンパク質で、細胞増殖や分化など多くの生理機能を調節する作用を持つ)によるBMP(骨組織や軟骨組織の分化を誘導、促進するタンパク質)シグナルの異常活性化が、FOPの異所性骨化の原因であることがわかっていた。
- FOP患者由来の細胞とアクチビンAを用いたハイスループットスクリーニング(多数の化合物の中から有効な化合物を見つけるための手法)を実施し、mTOR(免疫抑制剤ラパマイシンの標的分子として発見されたタンパク質)シグナルの活性化が異所性骨化を引き起こすことを見出した。
- 異所性骨化を抑える薬の候補としてラパマイシンを同定した。
概要
FOPは筋肉や腱、靭帯などの軟部組織の中に異所性骨とよばれる骨組織ができてしまう病気で、200万人に1人程度の割合、国内には約80名の患者がいると言われている希少難病の一つです。これまでの研究からFOPはACVR1(BMP受容体の一部を構成するタンパク質で、BMPと結合することにより骨形成のシグナルを伝達する)という遺伝子の突然変異が起こっており、そこにアクチビンAの刺激が加わると異常な骨形成シグナル(BMPシグナル)が伝わり、異所性骨化が生じることがわかっていました。
本研究グループは、アクチビンAの刺激からなぜ異所性骨化が生じるのか、その分子メカニズムを解明するとともに、治療薬候補を探索するために、FOP患者由来の細胞から作ったiPS細胞を利用し、ハイスループットスクリーニングを実施しました。約7,000の化合物をスクリーニングし、mTORシグナルが重要であることを突き止めました。また、異所性骨化のモデルマウスでもmTORシグナルの重要性を確認しました。さらに、ACVR1変異とmTORシグナルを結びつける分子として、ENPP2を同定しました。
これらの結果から、FOPの異所性骨化は、アクチビンA、ACVR1、ENPP2、mTORの経路が主要因であることがわかりました。また、骨化を抑えるためにはラパマイシンという薬剤が有効である可能性を示しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1172/JCI93521
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/226666
Kyosuke Hino, Kazuhiko Horigome, Megumi Nishio, Shingo Komura, Sanae Nagata, Chengzhu Zhao, Yonghui Jin, Koichi Kawakami, Yasuhiro Yamada, Akira Ohta, Junya Toguchida, and Makoto Ikeya (2017). Activin-A enhances mTOR signaling to promote aberrant chondrogenesis in fibrodysplasia ossificans progressiva. The Journal of Clinical Investigation, 127(9), 3339-3352.
- 朝日新聞(8月1日夕刊 1面、8月2日 4面)、京都新聞(8月1日 1面・夕刊 1面、8月2日 1面・23面)、産経新聞(8月1日夕刊 1面、8月2日 3面、8月6日 6面)、中日新聞(8月1日夕刊 10面、8月2日 23面)、日刊工業新聞(8月2日 3面)、日本経済新聞(8月1日夕刊 1面、8月2日 2面)、毎日新聞(8月1日夕刊 1面、8月2日 27面)および読売新聞(8月1日夕刊 8面、8月2日 1面)に掲載されました。