変幻自在のマイクロミキサー -水蒸気マイクロバブルを使った少量流体の高速撹拌に成功-

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名村今日子 工学研究科助教、鈴木基史 同教授らの研究グループは、水から溶けている気体を取り除き(脱気)、局所的に加熱することで水蒸気の小さな気泡(マイクロバブル)を発生させ、それを使って非常に急激な撹拌流を発生させることに成功しました。

本研究成果は、2017年3月31日にNature Publishing Groupのオンライン科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント

水蒸気マイクロバブルとその周辺の流れは水を加熱している間だけ発生するため、本研究成果は、任意位置で任意時間の間だけ流体を撹拌できる、強力で画期的なマイクロミキサーとして有用です。さらに、複数のバブルを並べたり、それぞれのバブルが作る流れの強さを調節したりすることで、マイクロメートルスケールの流路の中で複雑にデザインされた流れを発生させる、変幻自在のマイクロミキサーを実現することもできると期待しています。

バブルを発生させるために使っている薄膜は、そのまま生体分子のセンシングなどに応用できます。つまり本研究成果は、流れの発生とセンシングの両方に使える道具を提供します。一滴の血液を使って、様々な検査がすぐに完了するような時代が早く訪れると良いですね。

概要

血液検査装置などの液体を扱う装置の小型化が急速に進む中、ごく少量の液体を動かしたりかき混ぜたりする技術の開発が急務となっています。しかし、マイクロメートルスケールの小さい容器の中では、水などの液体は壁面からの力を受けて非常に動きにくい状態にあります。

本研究グループは、水蒸気マイクロバブルの表面に働く力を使い、少量の水を高速で攪拌できることを発見しました。一般的に水中のバブルの表面に働く表面張力は加熱すると弱くなります。そのため、バブル表面上に温度差を設けると表面張力に不釣り合いが生じて力が発生します。そこで、脱気した水を局所的に加熱することで直径10μm程度の小さな水蒸気マイクロバブルを発生させ、その表面上に数百度もの温度差を作ることに成功しました。その結果、バブル表面で非常に強い力が発生し、バブル周辺の水が1m/sを超える速さで駆動・撹拌されることがわかりました。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/srep45776

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/219403

Kyoko Namura, Kaoru Nakajima and Motofumi Suzuki.(2017). Quasi-stokeslet induced by thermoplasmonic Marangoni effect around a water vapor microbubble. Scientific Reports, 7, 45776.