依田高典 経済学研究科教授、伊藤公一朗 シカゴ大学助教授、田中誠 政策研究大学院大学教授らの研究グループは、東日本大震災後の2012年夏、2013年冬の二度にわたり、京都府けいはんな学研都市で節電要請と変動型電気料金のフィールド実験を行い、節電効果を行動経済学的に検証しました。その結果、節電要請は短期的には効果があるものの、すぐに効果が薄れてしまうことがわかりました。一方、特定の時間帯の電気料金を値上げした場合は節電効果が持続することも明らかになりました。
本研究成果は、全米経済学会機関誌「American Economic Journal:Economic Policy」に掲載されることになりました。
研究者からのコメント
東日本大震災後の電力危機の中で、経済産業省・関西電力・三菱重工等と共同で、京都大学の研究チームは、京都府けいはんな学研都市で節電のフィールド実験を行いました。節電要請の介入では、最初の数日間節電効果が観察されましたが、その効果はすぐになくなりました(馴化)。しかし、時間を空けて節電要請をすると、その効果は復活しました(脱馴化)。他方で、変動型電気料金の介入では、節電効果は長期間持続し、実験後の習慣形成化も観察されました。このような取組は、エビデンスに基づく政策形成の先駆けともなります。
概要
本研究グループは東日本大震災後の電力危機を受け、節電のフィールド実験に取り組みました。経済産業省のプロジェクトに参画し、横浜市・豊田市・けいはんな学研都市・北九州市の4地域で展開したスマートコミュニティ・プロジェクトの中で、2012年夏期(15日間)と2012年から2013年冬期(21日間)の二度実験を行いました。今回の論文では、その中でも京都府南部けいはんな学研都市の約700世帯を対象にした実験結果を取り上げ、節電のための効果的な取り組みを比較検討しています。また、実験には関西電力や三菱重工などの協力を得ました。
フィールド実験ではリアルタイムに各家庭の電気の使用量を把握できるよう、参加する約700世帯すべてにスマートメーターとホームエネルギーマネジメントシステム(HEMS)を無料で設置しました。その後、参加世帯をランダムに節電要請のみを行うグループ、変動型電気料金を導入するグループ、どちらも行わないコントロールグループへ割り当て、時間帯別電力使用量のデータから、コントロールグループと比較して節電要請グループ、変動型電気料金グループの電力利用量がどれだけ低かったかというピークカット効果を計測しました。
節電を勧める働きかけ方によって節電効果が持続するかどうか分析したところ、初回の夏期の節電要請は8%の効果があったものの、すぐに効果が落ち、馴化(介入に慣れて効果が減衰すること)していることが分かりました。他方で、変動型電気料金を導入すると一貫して17%の効果が持続しました。
詳しい研究内容について
- 節電要請は有効だが長続きしない!東日本大震災後のけいはんな学研都市のフィールド実験
- 朝日新聞(3月28日)、京都新聞(3月28日)、産経新聞(3月28日夕刊 14面)、日本経済新聞(3月28日夕刊 14面)、毎日新聞(3月29日 26面)および読売新聞(3月28日 33面)に掲載されました。