齊藤隆志 防災研究所助教、川村賢二 国立極地研究所准教授、本山秀明 同教授、阿部彩子 東京大学教授らの研究グループは、南極ドームふじで掘削されたアイスコアを使った過去72万年分の気温とダストの解析から、氷期のうち中間的な気温を示す時期に、気候の不安定性(変動しやすさ)が高くなることを見出しました。さらに、その一番の原因が温室効果の低下による全球の寒冷化であることを、大気海洋結合大循環モデルによる気候シミュレーションから解き明かしました。
本研究成果は、2017年2月9日午前4時に米国の科学誌「Science Advances」でオンライン掲載されました。
研究者からのコメント
今年で60周年を迎える南極観測には、第一次観測隊より西堀越冬隊長をはじめ多くの京都大学関係者が参加しています。氷床コア掘削を実施したドームふじ基地は、昭和基地より内陸1000キロに位置し、氷床コアの取得には、内陸ルートの開拓、基地建築などの長い過程があります。氷床コア研究は、精度良く時間的に長い過去の環境復元に貢献できる分野です。これからも、観測隊参加を含めて、京都大学の貢献が続くことを願っています。
概要
気候変動の起こりやすさ(気候の不安定性)は、地球の自然環境や人間社会に大きな影響を与えます。そのため、不安定性が過去どのような時期に高まっていたのかを知り、その原因を解明して気候モデルで再現することは、今後、地球温暖化によって不安定性が増すのかどうかといった問題にも重要です。過去を見ると、南極とグリーンランドの多数のアイスコアの研究から、最終氷期(約10万年前から2万年前)には南極で数千年スケールの気温変動が25回以上も起きたことや、それらが北半球の急激な温暖化や寒冷化と関係していたことが分かっています。そのような気候変動の原因は、何らかのきっかけで大西洋の深層循環が変化したことで、低緯度から南北に運ばれる熱の量が変わったことだと考えられています。
しかし、最終氷期より古い時代については、データが少ない上にアイスコアの時間分解能が低いため、気候の不安定性と平均状態の関係や、不安定性を誘発する原因についての理解が進んでいませんでした。
そこで本研究グループは、日本が2003年から2007年に掘削した「第2期ドームふじアイスコア」を解析し、過去72万年間の南極の気温とダスト(大気に漂う固体微粒子)の変動を詳細に復元し、欧州が掘削した「ドームCアイスコア」のデータと合わせることで、信頼性の高い古気候データを得ることに成功しました。
これらのデータを調べた結果、過去72万年のうち、氷期の中間状態において気候変動が頻繁に起こっていたことが判明しました。また、気候の不安定性が氷期の中間状態に高まる要因は、大気中の二酸化炭素濃度が低下したことで南極を含む地球全体が寒冷化し、深層循環が弱まりやすくなったことが重要であると示唆されました。
図:南極アイスコアの解析から得られた、過去72万年間における気候変動の繰り返し時間(頻度)と南極の気温との関係(黒丸)。グリーンランドのアイスコアによる最終氷期の結果も示す(赤四角)。間氷期のような暖かい時代や、氷期の最寒期のような寒い時代には頻度が低いが、氷期の中間的な寒さの時代に気候変動が頻繁に起こっており、気候が不安定であったことが示された。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1126/sciadv.1600446
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/218067
Dome Fuji Ice Core Project Members: Kenji Kawamura, Ayako Abe-Ouchi, Hideaki Motoyama, Yutaka Ageta, Shuji Aoki, Nobuhiko Azuma, Yoshiyuki Fujii, Koji Fujita, Shuji Fujita, Kotaro Fukui, Teruo Furukawa, Atsushi Furusaki, Kumiko Goto-Azuma, Ralf Greve, Motohiro Hirabayashi, Takeo Hondoh, Akira Hori, Shinichiro Horikawa, Kazuho Horiuchi, Makoto Igarashi, Yoshinori Iizuka, Takao Kameda, Hiroshi Kanda, Mika Kohno, Takayuki Kuramoto, Yuki Matsushi, Morihiro Miyahara, Takayuki Miyake, Atsushi Miyamoto, Yasuo Nagashima, Yoshiki Nakayama, Takakiyo Nakazawa, Fumio Nakazawa, Fumihiko Nishio, Ichio Obinata, Rumi Ohgaito, Akira Oka, Jun'ichi Okuno, Junichi Okuyama, Ikumi Oyabu, Frédéric Parrenin, Frank Pattyn, Fuyuki Saito, Takashi Saito, Takeshi Saito, Toshimitsu Sakurai, Kimikazu Sasa, Hakime Seddik, Yasuyuki Shibata, Kunio Shinbori, Keisuke Suzuki, Toshitaka Suzuki, Akiyoshi Takahashi, Kunio Takahashi, Shuhei Takahashi, Morimasa Takata, Yoichi Tanaka, Ryu Uemura, Genta Watanabe, Okitsugu Watanabe, Tetsuhide Yamasaki, Kotaro Yokoyama, Masakazu Yoshimori and Takayasu Yoshimoto. (2017). State dependence of climatic instability over the past 720,000 years from Antarctic ice cores and climate modeling. Science Advances, Vol. 3, no. 2, e1600446.