益田玲爾 フィールド科学教育研究センター 准教授、山本哲史 神戸大学学術研究員、源利文 同特命助教、荒木仁志 北海道大学教授、近藤倫生 龍谷大学教授、宮正樹 千葉県立中央博物館部長らの研究グループは、海水中に含まれる排泄物などのDNAから周辺に生息する魚種を明らかにする新技術を使うことで、目視観察よりも効率の良い魚類生物相調査が可能なことを明らかにしました。
本研究成果は、2017年1月12日午後7時に英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
研究者からのコメント
海水中にただようDNAをフィルターで濾過して抽出し、バーコーディング方式で検出するという方法で、多様な魚類のデータが一気に得られることがわかりました。海の生物資源の管理や環境の保全など、応用範囲は無限です。でも、こうした技術によって、生き物を直接観察することの重要性が損なわれるわけではない、と信じて、地道な潜水調査も続けたいと思います。
本研究成果のポイント
- 海の中にどんな魚が生息するかを明らかにするには、これまで多大な労力と長期間の調査、高度な専門知識が必要だった。
- 海水中のDNAを解析し、わずか1日の調査で128種もの魚類のDNAを検出した。
- 採水だけで短期間に多地点の魚類相を明らかにでき、外来種の侵入や分布拡大の調査、アクセスが難しい深海や危険な汚染水域、生物採集の禁止区域での活用が期待される。
概要
従来、海洋での魚類生物相調査は魚種を外見によって区別する潜水や捕獲のような方法に頼って行われていましたが、多くの人手が必要な上、魚種を区別する専門知識も必要としていました。この問題を解決する新しい魚類生物相調査法として「環境DNA多種同時検出法(メタバーコーディング)」と呼ばれる方法が注目されています。この新しい調査法は、魚が放出して海水中に存在するDNA(環境DNA)を回収・分析し、放出源となった魚種を特定するというものです。しかし、この調査法の有効性の確認は限定的なものでした。なぜなら、これまでは生息する魚種が少ない場所でしか検証されていなかったためです。日本沿岸のように魚種の多い場所では、従来法によって調査されたデータが乏しく、結果を比較できないためこの環境DNAメタバーコーディング法の有効性は未確認でした。
本研究グループは、京都府北部の舞鶴湾において、環境DNAメタバーコーディングを利用することで、現地調査をたった1日で行い、この方法によりその海水試料から128種もの魚類のDNAを検出することに成功しました。この128種には2002年から14年間、計140回の潜水目視調査で観察された種の6割以上が含まれます。ある年だけ偶然舞鶴湾へ回遊してきた魚種を除くと、8割近くを1日の調査で確認できたことになります。さらに、目視では確認されていない魚種も検出できました。
図:潜水目視調査で観察された種のうち、環境DNAメタバーコーディングでも検出された種
縦軸は14年間の調査で観察された各魚種の個体数。黒い棒グラフは環境DNAメタバーコーディングでも検出された種(40種)、白い棒グラフは検出されなかった種(25種)。目視調査では80種を観察しているが、現在のメタバーコーディング技術では仕組み上検出できない種を除いて、65種でグラフを作成した。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 http://doi.org/10.1038/srep40368
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217791
Satoshi Yamamoto, Reiji Masuda, Yukuto Sato, Tetsuya Sado, Hitoshi Araki, Michio Kondoh, Toshifumi Minamoto & Masaki Miya. (2017). Environmental DNA metabarcoding reveals local fish communities in a species-rich coastal sea. Scientific Reports, 7:40368.