中津亨 薬学研究科准教授、山下恵太郎 理化学研究所放射光科学総合研究センター生命系放射光利用システム開発ユニット基礎科学特別研究員、山本雅貴 同ユニットリーダー、長谷川和也 高輝度光科学研究センタータンパク質結晶解析推進室チームリーダー、熊坂崇 同室長代理らの研究グループは、放射光を利用して数マイクロメートル程度の微小タンパク質結晶から効率よく回折データを得る「Serial Synchrotron Rotation Crystallography(SS-ROX)法」の測定技術を確立しました。
本研究成果は、2016年12月2日に国際結晶学会の科学雑誌「Journal of Synchrotron Radiation」オンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
これまでさまざまなタンパク質の単結晶を作成し、SPring-8を使って立体構造を決定してきました。 このとき、たくさんできる微小結晶を使って簡単に構造決定ができればどれだけ便利だろうか、と思っていました。今回確立したSS-ROX法は、微小結晶構造解析の効率化を達成し、 従来法では困難だったより小さい結晶の利用も実現できます。 また、SPring-8のような高輝度放射光施設に設置されたマイクロビームが 利用できるビームラインであれば、世界中どこでも適用可能な測定手法であることから、 SS-ROX法は微小結晶の汎用的なデータ測定方法になると期待できます。
概要
タンパク質X線結晶構造解析法は高い分解能で生体分子の構造を決める最も一般的な方法ですが、まだ解析されていない重要なタンパク質の多くは、現在、サイズが大きい良質な結晶が得にくい状況にあります。微小結晶から高精度な回折データを得て構造を決定するには、SPring-8の高輝度マイクロビームを用いた測定が有効です。この測定では放射線損傷により結晶の品質が低下するため、一つの結晶から構造決定に必要な枚数の回折像を得るのは困難です。そのため、多数の結晶から得た部分的な回折像を合わせて完全性を高める必要があります。しかし、多数の回折像を得るには大量の試料が必要なため、少ない試料で微小タンパク質の構造を決定できる効率的な測定方法の開発が求められていました。
そこで本研究グループはSS-ROX法に着目しました。SS-ROX法では、微小結晶の懸濁液を凍結したものを試料とし、試料位置をずらしながら回転させることで網羅的にX線を照射し、試料中に含まれる微小結晶を効率よく測定できます。しかし新しい手法であるため、測定技術が確立していませんでした。
本研究グループはSPring-8 BL41XUでSS-ROX法により、蛍の発光に関わるタンパク質であるルシフェリン再生酵素(LRE)の水銀誘導体の微小結晶の構造解析を行いました。測定中に試料を回転させない場合は17,800枚必要だった回折像を、400から600枚まで減らして構造を決定できました。また、放射線損傷の評価やS/N比(測定時の信号(signal)と雑音(noise)の比率)に関する検討などを行い、SS-ROX法の測定技術を確立しました。
図:SS-ROX法による回折データ測定の模式図
樹脂製の直径約1mmの楕円形をしたサンプルループ(茶色)にすくい上げた目的の微小結晶懸濁液(水色)を、緑矢印方向に並進、青矢印方向に回転させながらX線(赤矢印)を照射する。照射はサンプルループの右端から開始され(a)、左端で終了する(c)。その後、サンプルループを縦方向にずらし、次の行に対して同様のX線照射を行う。これを一つの試料あたり数十回繰り返す。すると、サンプルループ中の微小結晶に網羅的にX線を照射することになり、効率のよい回折データ測定が可能となる。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】 https://doi.org/10.1107/S1600577516016362
【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/217787
Kazuya Hasegawa, Keitaro Yamashita, Tomohiro Murai, Nipawan Nuemket, Kunio Hirata, Go Ueno, Hideo Ago, Toru Nakatsu, Takashi Kumasaka and Masaki Yamamoto. (2017). Development of a dose-limiting data collection strategy for serial synchrotron rotation crystallography. Journal of Synchrotron Radiation, Volume 24, Part 1, Pages 29-41.