佐藤文彦 生命科学研究科教授、山田泰之 同特定研究員らの研究グループは、有用医薬品であるベルベリンを産生するオウレン培養細胞を用い、何故、多くの場合、植物細胞における有用物質生産が制限されているのか、つまり、よりたくさんの有用物質を作る細胞を得ることが困難なのかということの制御機構の一端を明らかにすることに成功しました。
本研究成果は、2016年8月24日18時に「ScientificReports」オンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
現在、どのようにすれば、ベルベリン生合成系を制御する転写因子CjWRKY1の安定性と活性を高め、より多くの有用アルカロイドを作ることができるようになるのか検討中です。また、今回研究対象となったWRKYタンパク質は、植物の二次代謝のみならず、植物防御応答にも関わることが知られていることから、WRKYタンパク質の安定性と活性の向上は、植物の有用物質生合成系の生産性向上のみならず、植物の防御応答の改善にも寄与することが期待されます。
概要
植物はさまざまな有用な二次代謝産物を産生しますが、これらの需要は医薬品などで増大しており、生産性の向上が急務です。細胞培養法ならびに代謝工学は生産能向上の有力な手法であり、特に、生合成系を制御する転写因子の過剰発現による生合成系全体の活性化に大きな期待が寄せられています。
一方、転写因子の効果は、期待されるほどではないということがよく知られていました。本研究では、有用医薬品であるベルベリンアルカロイドを産生するオウレン培養細胞系を用い、ベルベリン生合成系を制御する転写因子CjWRKY1の活性がどのように制御されているかを解析しました。
その結果、まず、アルカロイドの生合成活性と転写因子CjWRKY1の蓄積に良い相関があること、また、CjWRKY1の転写活性化能に、CjWRKY1のWRKYドメインを構成するチロシンのリン酸化、核局在性と、プロテアゾーム系、並びに非プロテアゾーム系のタンパク質分解が関与していることが明らかになりました。
このことは、これまで、転写因子を人為的に過剰発現しても、その制御する生合成遺伝子の発現、さらには、アルカロイドの蓄積を引き起こせなかったことの原因の一部が判明できたといえます。
現在、より多くの有用アルカロイドの生合成を誘導するためのCjWRKY1タンパク質の活性の向上を検討中です。
図:ベルベリンを作るオウレン156-S細胞(左)、ほとんど作らないCjY細胞(右)
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1038/srep31988
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/216387
Yasuyuki Yamada & Fumihiko Sato. (2016). Tyrosine phosphorylation and protein degradation control the transcriptional activity of WRKY involved in benzylisoquinoline alkaloid biosynthesis. Scientific Reports, 6: 31988.