瀬戸崎修司 医学研究科博士課程学生、南方謙二 同講師、升本英利 iPS細胞研究所(CiRA=サイラ)特命助教らの研究グループは、ラットの腹部大動脈瘤モデルを用いた実験により、緑茶ポリフェノールの摂取が腹部大動脈瘤の伸展・増大を予防することを示しました。
本研究成果は2016年7月26日(米国時間)に、「Journal of Vascular Surgery」誌で公開されました。
研究者からのコメント
本研究成果は、特に日本では日常的に愛飲されている緑茶のもつ潜在的な健康寿命延伸への貢献の可能性を示しています。無症状ということで治療がしにくく、かつ一旦破裂すると致命的になりうる腹部大動脈瘤に対する緑茶ポリフェノールによる増大予防効果を示した本研究成果は、公衆衛生上あるいは疫学上も興味深いと考えられます。
概要
腹部大動脈瘤は一旦破裂すると50%以上の患者が死亡に至る致命的な病気ですが、通常は破裂するまで症状がなく、破裂する前に外科的治療(人工血管に置き換える・血管内からステント付人工血管を入れ込む)が必要です。瘤の径が増大するほど、破裂の危険は高まるといわれています。
緑茶ポリフェノールは、抗炎症作用や抗酸化作用などの多様な生理作用により、がんや心血管疾患などの予防効果があることが報告されています。 そこで、本研究グループは、緑茶ポリフェノールの摂取による腹部大動脈瘤の増大予防効果について検討しました。
まず、研究グループはラットを2群に分け、1群には飲料水を、もう1群には緑茶ポリフェノール(ガレート型カテキン)を飲料水に混ぜて2週間投与しました。その後エラスターゼ(タンパク分解酵素)などを腹部大動脈に投与し、ラットの腹部大動脈瘤モデルを作成しました。
モデル作成後4週間観察した結果、緑茶ポリフェノール投与群では飲料水群に比べ、腹部大動脈瘤の径の増大が抑えられることを確認しました。
さらに、大動脈壁の主要な構成タンパク質であるエラスチンの合成が緑茶ポリフェノール群において促進していることがわかりました。つまり、大動脈瘤が破裂しづらくなったといえます。
また、緑茶ポリフェノール群では、大動脈瘤の増大に悪影響を及ぼすとされている炎症反応が抑えられていることがわかりました。肝障害などの副作用は、本実験で使用した緑茶ポリフェノールの濃度では起こりませんでした。
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.jvs.2016.06.003
Setozaki Shuji, Minakata Kenji, Masumoto Hidetoshi, Hirao Shingo,Yamazaki Kazuhiro, Kuwahara Koichiro, Ikeda Tadashi, Sakata Ryuzo. (2016). Prevention of abdominal aortic aneurysm progression by oral administration of green tea polyphenol in a rat model. Journal of Vascular Surgery.
- 京都新聞(8月20日 27面)、毎日新聞(8月15日 26面)に掲載されました。