一つの体に無数の時計。アバウトでも整然と。-ウキクサ植物を用いて植物の概日時計の挙動を細胞レベルで解明-

ターゲット
公開日

村中智明 研究員、小山時隆 理学研究科准教授らの研究グループは、ウキクサ植物を材料として、個々の細胞における遺伝子発現リズムを可視化する技術を開発し、細胞レベルから生物が時間を測る体内時計(概日時計)の挙動を解明することに成功しました。

本研究成果は、2016年7月16日午前3時に米国科学振興協会の学術誌「Science Advances」に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、小山准教授、村中研究員

植物個体上の個々の細胞の遺伝子発現を自然な状態で長期間観測することで、細胞に由来する生物時計の本質に一歩近づく研究成果を上げることができました。材料に使ったウキクサは、かなりエエ加減な時計で構成されていることが驚きでした。日の長さに応じて花を咲かせる光周性反応では厳密に昼夜の長さを測っていることがウキクサで知られていたからです。エエ加減な細胞時計の集合体であるウキクサも、昼夜のある環境ではビシッと秩序をもって時刻を揃えることを明らかにすることで、エエ加減な時計によって厳密な時間測定するという不思議な現象の説明ができたことが私にとって大きな成果に感じられます。今後は、このような生物時計の性質を与えるメカニズムを解明するとともに、エエ加減で個性をもつ細胞時計で構成される社会としての植物を時間秩序の視点から理解していきたいと思っています。

本研究成果のポイント

  • 植物個体内の細胞が生み出す概日リズムを個別かつ長期間測定することに世界で初めて成功
  • 細胞単位の概日時計は時間精度も均質性も低いアバウトな性質を持つことを定量的に実証
  • 昼夜のある条件ではアバウトな性質が一掃され、細胞時計は個体内で整然と時を刻むことを発見

概要

生物は時間を測る体内時計(概日時計)という約24時間周期のリズム(概日リズム)発振機構を備えており、地球の自転に伴う昼夜サイクルに適応しています。概日時計を構成する遺伝子は個々の細胞で機能するため、個々の細胞が時計として働きます。しかしながら、植物内における細胞の遺伝子発現を個別に測定することは非常に困難であり、細胞レベルでの概日時計の性質はよく分かっていませんでした。

本研究ではウキクサ植物を材料として、個々の細胞における遺伝子発現リズムを可視化する技術を開発し、細胞レベルから概日時計の挙動を解明することに成功しました。その結果、連続明のような昼夜のない条件では、個々の細胞のリズム周期は不安定であり、細胞間でリズムは徐々にずれていくことが明らかとなりました。

一方、昼夜のある環境下では植物細胞の概日時計は秩序正しく時刻の空間パターンを形成することを発見しました。この空間パターンは、昼夜のない条件でみられたアバウトな時計の性質を一掃することで形成されると推察されます。このことから、植物の概日時計は昼夜のある環境下で初めてその実力を発揮すると考えられました。

昼夜の有無によって植物の時計の状態が大きく異なることを明らかとなりましたが、今後、このような劇的な変化を可能とする仕組みを解明することを目指します。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1126/sciadv.1600500


【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/216055

Tomoaki Muranaka and Tokitaka Oyama. (2016). Heterogeneity of cellular circadian clocks in intact plants and its correction under light-dark cycles. Science Advances, Vol. 2, no. 7, e1600500.

  • 京都新聞(7月28日 26面)に掲載されました。