門脇浩明 人間・環境学研究科日本学術振興会特別研究員(現生態学研究センター機関研究員)らを中心とする国際共同チームは、生物種の間の相互作用(競争関係)が環境変化に伴いどのように変化するのか、微生物の組み合わせを用いた実験を通して明らかにしました。
本研究成果は英国王立協会の生物学速報雑誌「Biology Letters」電子版に2016年5月25日に掲載されました。
研究者からのコメント
環境が変わると、個々の生物種はその変化に反応しますが、生物間の関係(相互作用)の強さや方向性もまた同時に変化します。生物間の関係性が変わることで、僅かな環境変化でも想像以上に多くの種が絶滅に追いやられる可能性が示されました。今後はこの成果を踏まえ研究を進めることで、地球環境変動のもと、私たちを取り巻く自然がどのように変化するのかを的確に予測する方法を確立したいと思います。
本研究成果のポイント
- これまで難しいと考えられてきた、「生物間の相互作用を含んだ」生物多様性の将来予測に近づく重要な成果を得た。具体的には、さまざまな微生物の組み合わせを用いて群集を作り、どのような条件下で種間相互作用が変化しやすいのかを解明
- 生育・増殖できる環境条件の範囲であるニッチが異なる種群から構成される群集ほど、環境変化に伴い種間相互作用が変化しやすいことを示した。
- 生物多様性の将来予測では、これまで考えられていた以上に慎重な予測が必要となることを示唆する結果
概要
生物種の間の相互作用は個体の生息数予測に大きな影響を及ぼすにも関わらず、環境の変化やそれに対応する生物種の変化など、多くの要素を検討する必要がある複雑な現象であるため、これまでの予測手法には組み込まれていませんでした。
今回の研究では、緑膿菌の1種と12種類の細菌の組み合わせを用い、培地の塩分濃度の変化を環境変化として相互作用を観察しました。その結果、増殖に適した環境条件がかけ離れている(ニッチが異なる)細菌の組み合わせほど、環境の変化に伴う相互作用の強さが変化しやすいことが分かりました。
この成果は、生物種間の相互作用の強さによっては、従来の予測手法では生物の生息数予測が困難であることを示唆しています。これにより、生物多様性の将来予測能力の現状把握と向上の可能性に貢献することができたと考えられています。また、この成果により、さらに複雑な自然生態系の将来予測手法確立への基盤を生み出しました。
本研究の概要
詳しい研究内容について
書誌情報
【DOI】
http://dx.doi.org/10.1098/rsbl.2015.1073
Kohmei Kadowaki, Claire G. Barbera, William Godsoe, Frédéric Delsuc, Nicolas Mouquet. (2016). Predicting biotic interactions and their variability in a changing environment. Biol. Lett. 12: 20151073.