深海にひろがる鏡の向こうの微生物世界-Dアミノ酸を好む深海微生物を発見-

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丸山史人 医学研究科准教授は、国立研究開発法人海洋研究開発機構海洋生命理工学研究開発センターと共同で、有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機「ハイパードルフィン」等により深海から採取した堆積物から、D-アミノ酸を好んで食べて増殖する微生物を発見しました。

また、本研究成果は、2016年4月19日に「Frontiers in Microbiology」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

本研究グループはD-アミノ酸を好む微生物の生態学上の役割、そして微生物細胞内でのD-アミノ酸利用の仕組みについて、研究を展開する予定です。深海微生物が有する物質代謝機能の理解をより一層進めていくとともに、それらを応用した新たな社会的価値や経済的価値を生み出すイノベーションの創出に向け、研究開発を推進していきます。

概要

タンパク質を構成するアミノ酸にはL-アミノ酸とD-アミノ酸の二つの鏡像異性体が存在しており、これまで生物はL-アミノ酸のみを選択的に利用していると考えられてきましたが、分析技術の進歩とともに、生物の体内に少量ながらもD-アミノ酸が存在することが分かってきています。

しかし、これまでD-アミノ酸を利用して増殖する微生物の深海環境からの単離は報告されておらず、深海環境での微生物によるD-アミノ酸利用の実像は全くわかっていませんでした。

本研究グループは、国立研究開発法人海洋研究開発機構の有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機「ハイパードルフィン」等を用いて相模湾(水深800m~1500m)から採取した深海堆積物から、D-アミノ酸を栄養素(炭素・エネルギー源)として含む特殊な培地を用いたスクリーニングによって、D-アミノ酸を利用して増殖する微生物を計28株分離することに成功しました。

また、もっとも効率良くD-アミノ酸を利用する微生物について、その利用能を浅海から単離された近縁株と比較したところ、殆ど遺伝子上の違いがないにも関わらず、今回深海から単離した微生物のみが効率良くD-アミノ酸を利用する能力をもつことが明らかになりました。

一般的に生物が圧倒的に多く生産するL-アミノ酸ではなく、D-アミノ酸をわざわざ選んで取り込むという驚くべきこの性質は、微生物が深海のような栄養に乏しい極限環境で生き残るための生存戦略として急速に獲得された可能性を示しています。こうした深海微生物の性質をさらに詳しく調べていくことで、未だ謎の多いD-アミノ酸の機能が明らかにされ、新たな医用技術やバイオテクノロジー開発へ応用されることが期待されます。

図:アミノ酸の1種、セリンのL体(左)とD体(右)

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】
http://dx.doi.org/10.3389/fmicb.2016.00511

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/210418

Takaaki Kubota, Tohru Kobayashi, Takuro Nunoura, Fumito Maruyama and Shigeru Deguchi. (2016) Enantioselective Utilization of D-Amino Acids by Deep-Sea Microorganisms. Frontiers in Microbiology, 7:511.