北川宏 理学研究科教授、大坪主弥 同助教、坂井田俊 同博士後期課程学生および坂田修身 物質・材料研究機構高輝度放射光ステーション長、高田昌樹 理化学研究所グループディレクターらの研究グループは、ナノメートルサイズの薄膜化により分子の吸着機能を発現する多孔性配位高分子を発見しました。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Chemistry」のオンライン版に2016年3月7日16時(英国ロンドン時間)に掲載されました。
研究者からのコメント
今回の研究では、通常の大きな結晶(バルク)状態では分子を全く吸わない多孔性金属錯体(MOF)が、非常に薄いナノメートルサイズの結晶性薄膜になると分子を吸うようになることを発見しました。分子を取り込み、放出する際に薄膜があたかもゲートを開閉するように動いていることを大型放射光施設SPring-8でのX線回折実験からクリアに確認することが出来ました。この発見は、MOFの結晶サイズの変化が物性に劇的な変化をもたらし得ることを示しており、これまで実用性が無いと思われていたMOFでもサイズ次第で有用になる可能性がありますし、膜の厚みを自在にコントロール出来る薄膜合成の長所を生かすことで、将来的にセンサー材料やガス分離膜等への応用につながることが期待できます。
概要
活性炭やゼオライトに代表されるような吸着材は、分子を取り込み吸着する機能を持つ物質であり、物質内部に多数の小さな穴(細孔)を有することから「多孔性材料」と呼ばれています。最近では、活性炭やゼオライトに比べて高いガス選択吸着性を示す「多孔性金属錯体(MOF)」が高効率分離・濃縮機能を有する多孔性物質として注目され、活性炭やゼオライトに次ぐ新しい多孔性材料として世界中で積極的に研究開発が進められています。
今回、本研究グループは、バルクの結晶状態では分子を取り込む機能を全く示さないMOFが、ナノメートルサイズの結晶性薄膜になるとゲートが開くような構造変化を伴って分子を取り込むようになることを発見しました。ナノメートルサイズの薄膜の結晶成長や分子の取り込みに伴う構造変化は、大型放射光施設SPring-8の高輝度X線による精密なX線回折実験により初めて確認しました。以上の研究成果は、多孔性薄膜材料を用いた新しいガス分離膜、センサー材料や電子デバイスとしての応用に繋がることが期待されます。
本発見のまとめ
(A)研究に使用した二次元層状ホフマン型MOFの結晶構造(左図、オレンジ色:白金、赤色:鉄、灰色:炭素、青色:窒素で表示)と簡略化した構造(右図、水色で表示)。(B)結晶のサイズの変化によるガス分子に対する応答性の変化。バルク状態(上図)のMOF結晶ではガス分子(赤い球)が存在しても全く応答が見られませんが、このMOFをナノメートルサイズの薄膜へと小型化した場合(下図)、ガス分子を取り込むように構造が変化する(動き出す)ことが分かりました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nchem.2469
Shun Sakaida, Kazuya Otsubo, Osami Sakata, Chulho Song, Akihiko Fujiwara, Masaki Takata and Hiroshi Kitagawa
"Crystalline coordination framework endowed with dynamic gate-opening behaviour by being downsized to a thin film"
Nature Chemistry Published online 07 March 2016
- 京都新聞(3月8日 29面)および日刊工業新聞(3月8日 21面)に掲載されました。