藤戸大徳 工学研究科元博士課程学生、国奥広伸 同博士課程学生、東正信 同助教、陰山洋 同教授、阿部竜 同教授らは、酸塩化物からなる光触媒が、可視光を吸収して安定に水を酸化できることを世界で初めて見出し、これを酸素生成系として用いた定常的な可視光水分解を実証しました。
本研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」(アメリカ時間2月15日電子版)で公開されました。
研究者からのコメント
無尽蔵の太陽光エネルギーを利用し,水から直接「水素」を高効率かつ低コストで製造できる技術を確立できれば,未来の「水素社会」実現への大きな一歩となります。この実現には、太陽光中に豊富に含まれる「可視光」の有効利用が不可欠ですが、これまでの光触媒材料の設計指針では、「可視光吸収」と「水分解に対する安定性」を両立させることが本質的に困難でした。本研究成果は、この長年にわたるジレンマを打ち破る、新たな設計指針を提供するものであり、これを基にして革新的な可視光水分解用光触媒を開発することで、高効率太陽光水素製造の実現に向けたブレークスルーにつながると考えています。
概要
エネルギー資源枯渇の問題から、近年、水素をエネルギーキャリアとして用いる水素社会実現に向けた研究開発・実用化が進められています。光を用いて水を水素と酸素に分解する技術は、CO 2 を排出しないクリーンなプロセスであり、太陽光エネルギーの大部分を占める可視光照射下で働く光触媒の開発が行われています。複数の負電荷イオン(アニオン)からなる混合アニオン化合物は、バンドギャップが小さいため、光触媒の候補としてとして注目されていますが、安定性に問題があることが知られていました。
本研究では、酸素(O 2- )と塩素(Cl - )の二種のアニオンからなる層状の酸塩化物が、可視光を吸収して、安定して水を酸化する能力があり、これを用いた定常的な可視光水分解を実証しました。また、理論計算から、同物質のバンド構造が、通常の混合アニオン化合物の場合と決定的に異なることを見出だしました。本研究で得られた知見は、安定性と高活性を両立する光触媒の設計指針を与えるものであり、将来の高効率太陽光水素製造の実現に向けたブレークスルーにつながることが期待されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/jacs.5b11191
Hironori Fujito, Hironobu Kunioku, Daichi Kato, Hajime Suzuki, Masanobu Higashi, Hiroshi Kageyama, and Ryu Abe
"Layered Perovskite Oxychloride Bi4NbO8Cl: A Stable Visible Light Responsive Photocatalyst for Water Splitting"
Journal of the American Chemical Society, Publication Date (Web): February 15, 2016
- 京都新聞(2月13日 28面)に掲載されました。