柳田素子 医学研究科教授、高折光司 同研究生らの研究グループは、急性腎障害(Acute Kidney Injury: AKI)が慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全に移行するメカニズムを解明するとともに、「AKI to CKDモデル動物」を確立しました。本研究の成果は、AKIの主因である近位尿細管障害を修復することがCKDや末期腎不全への移行を食い止め、透析導入を遅延させる可能性を強く示唆するものです。
本研究成果は、米国科学誌「Journal of American Society of Nephrology」のオンライン版で公開されました。
研究者からのコメント
左から柳田教授、高折研究生
数時間から1週間程度の経過で腎臓の機能が低下する病態をAcute Kidney Injury(AKI)といいます。AKIは従来「治る病気」と考えられてきましたが、近年、AKIは致死率が高いのみならず、末期腎不全や慢性腎臓病(CKD)に至る予後の悪い病態であることが明らかとなり、世界的に注目を集めています。本研究は、AKIがCKDへ移行するメカニズムを直接的に証明するとともに、病変の首座が近位尿細管であり、その障害を標的としたAKI創薬がCKDや末期腎不全への移行を食い止める可能性を示唆するものです。本モデルは「AKI to CKDモデル動物」として創薬の場でも有用性が高いと期待できます。
概要
AKIにおいては、腎臓の機能単位ネフロンの近位尿細管という部位が障害されますが、CKDでは広範なネフロン障害と線維化、腎性貧血が特徴となっています。AKIがCKDに移行することは疫学的には確立されていますが、AKIの主因である近位尿細管障害が広範なネフロン障害と線維化、腎性貧血を特徴とするCKDを惹起するメカニズムは明らかにされていませんでした。
今回、柳田教授、高折研究生らの研究グループは、独自の遺伝子改変動物を作成し、近位尿細管単独の障害がAKIを惹起するとともに、周囲の線維芽細胞の形質転換を惹起し、それに伴う腎性貧血や線維化を引き起こすこと、さらには、糸球体硬化や遠位尿細管障害など、広範なネフロン障害を惹起することを世界ではじめて証明しました。
また本研究により、近位尿細管障害の強さと頻度がCKDへの移行に重要であることも明らかにしました。この所見は、AKIの重症度や頻度がCKDへの移行を左右するという疫学結果の理論的根拠となる結果です。本研究の結果は、AKIを適切に治療し、近位尿細管を健康な状態に保つことがCKDや末期腎不全への移行を食い止め、透析導入を遅延させる可能性を強く示唆するものです。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1681/ASN.2015060647
Koji Takaori, Jin Nakamura, Shinya Yamamoto, Hirosuke Nakata, Yuki Sato, Masayuki Takase, Masaaki Nameta, Tadashi Yamamoto, Aris N. Economides, Kenji Kohno, Hironori Haga, Kumar Sharma, and Motoko Yanagita
"Severity and Frequency of Proximal Tubule Injury Determines Renal Prognosis"
Journal of the American Society of Nephrology, Published online before print December 23, 2015
- 朝日新聞(1月21日 17面)、京都新聞(1月5日 27面)および産経新聞(1月5日 23面)に掲載されました。