陰山洋 工学研究科教授は、竹入史隆 同博士後期課程学生、矢島健 同特定助教(現 東京大学助教)、小林洋治 同講師らとの共同研究によって、マイナス電荷をもつ水素イオンの高い活性を利用し、温和な条件で酸窒化物を合成する新手法を開発しました。本成果により、革新的な強誘電材料の開発だけでなく、さまざまな無機材料の設計が可能になると期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Chemistry」誌のオンライン速報版で公開されました。
研究者からのコメント
今回使った物質は、もともとパソコンや携帯電話などあらゆる電子機器に使われている安定な酸化物です。この酸化物に高活性な水素を導入することによって、不可能な反応が可能になったことは驚きでした。この活性を利用すれば、究極には空気中の窒素でも低温で反応するのではないかと考えており、現在、研究を続けています。
概要
現在、陶器、電子部品など身の回りでつかわれているセラミックス材料は、酸素イオン(O 2- )からなる酸化物です。近年、酸素イオンと窒素イオン(N 3- )の両方を含む酸窒化物が、可視光触媒などの(酸化物にはない)優れた特性を示す次世代材料として大きな注目を集めています。しかし、酸窒化物の合成には高温(900から1500度)のアンモニア気流中で焼成するという過酷な条件が必要であり、組成と構造に大きな制約があるため機能の制御が困難でした。
本研究では、酸化物の中に存在するマイナス電荷の水素イオン(ヒドリド、H - )が高い活性を有することに着目して、温和な条件で酸窒化物を合成する新しい手法を開発しました。陰山教授らは2012年に、ヒドリドを大量に有する酸化物の合成に成功し、その結果をネイチャーマテリアルズ誌に報告しています。今回、同物質をアンモニア気流中、500度以下の温度で処理したところ、物質中のヒドリドがアンモニア分子(NH 3 )の窒素と結晶骨格を保ったまま交換し、最終的に酸窒化物が得られることを見出しました。酸窒化物は、次世代の強誘電材料の候補として期待されており、本研究により得られた酸窒化物は、試料全体の機能が制御された強誘電性を示す初めての例となります。このように酸化物の中に存在する「活性水素」を利用することにより、今後、酸窒化物に限らず、従来は不可能であったさまざまな無機材料の設計が可能になると期待されます。
本研究の概略図。「活性水素」(ヒドリド)を含む酸化物(中央)をアンモニア気流中、低温処理(375から500度)することにより、水素と窒素の交換反応が進行し、新しい酸窒化物(右下)が得られる。従来、低温アンモニア処理では試料表面のみしか窒素化できないと考えられていた。また、安定な酸化物(左下)から酸窒化物は得られない。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/nchem.2370
Takeshi Yajima, Fumitaka Takeiri, Kohei Aidzu, Hirofumi Akamatsu, Koji Fujita, Wataru Yoshimune, Masatoshi Ohkura, Shiming Lei, Venkatraman Gopalan, Katsuhisa Tanaka, Craig M. Brown, Mark A. Green, Takafumi Yamamoto, Yoji Kobayashi and Hiroshi Kageyama
"A labile hydride strategy for the synthesis of heavily nitridized BaTiO3"
Nature Chemistry, Published online 19 October 2015
- 京都新聞(10月20日 25面)および科学新聞(10月30日 6面)に掲載されました。