寺尾知可史 医学研究科附属ゲノム医学センター特定助教(現ハーバード大学博士研究員)との吉藤元 医学研究科助教(内科学講座臨床免疫学)らの研究グループは、日本で約6000人の希少難病である高安動脈炎について、以前の独自の研究で発症に関わる遺伝子として発見したIL-12B遺伝子がコードするIL-12/23 p40を抑制する薬であるウステキヌマブを、3人の高安動脈炎患者に投与し、症状および血液炎症所見の改善効果を認め、ウステキヌマブが高安動脈炎の新規治療薬となる可能性を、世界で初めて示しました。
本研究成果は、近日中に、欧州医学雑誌「Scandinavian Journal of Rheumatology」の電子版に掲載されることになりました。
研究者からのコメント
複数の遺伝子が発症に関わると考えられる多因子疾患の遺伝子サンプルを収集し、発症に関連する遺伝子を発見して、さらに、その遺伝子を制御する薬が同疾患に有効であることを示した例は、過去にもほとんどなく、その可能性を示した本研究は、意義深いと考えられます。
概要
高安動脈炎は、大動脈およびその分枝血管に炎症性の狭窄や動脈瘤をきたす疾患で、日本の患者数は約6000人と希少な疾患であり、発症年齢は20代が最多と若く、女性に多いです。標準治療薬として経口ステロイドがありますが、ステロイドを減量すると約半数で再燃がみられ、進行すると、大動脈弁閉鎖不全、失明、脳梗塞、大動脈瘤などの重大な合併症をきたし、またステロイドの長期投与による副作用が問題となります。ステロイド以外に、高安動脈炎に特異的な治療薬は確立されていません。
今回、研究計画について医の倫理委員会の承認の下、経口ステロイドと1剤以上の免疫抑制薬を併用しても首の痛みなどの症状の改善が不十分である高安動脈炎患者3名に、文書同意を得た上で、従来から、一部の皮膚疾患、炎症性腸疾患の患者に投与されているウステキヌマブ1回45mgを4週間隔で2回投与しました。その結果、投与開始から1~3か月後に、頭痛・首の痛み・倦怠感などの症状が改善し、血液検査上の炎症所見であるCRP、赤沈も改善しました(図)。約3ヶ月の研究期間に、特段の副作用を認めませんでした。一方、治療前後に行った画像検査では血管の炎症を示す所見には著変を認めず、長期的予後の改善効果については更なる検討が必要と考えられました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.3109/03009742.2015.1060521
C. Terao, H. Yoshifuji, T. Nakajima, N. Yukawa, F. Matsuda, T. Mimori
"Ustekinumab as a therapeutic option for Takayasu arteritis: from genetic findings to clinical application"
Scandinavian Journal of Rheumatology, Published online: 27 Aug 2015
- 京都新聞(8月1日 28面)および日経産業新聞(10月16日 8面)に掲載されました。