小川誠司 医学研究科教授、Neal Young 博士(米国国立衛生研究所(NIH))、宮野悟 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター教授、中尾眞二 金沢大学附属病院教授、Jaroslaw Maciejewski 博士(米国クリーブランドクリニック)を中心とする研究チームは、439症例の再生不良性貧血の患者さんから数年間にわたって継時的に採取された668検体の血液試料について、次世代シーケンサーを用いた全ゲノム解析を行うことによって、白血病の発症に先だって造血系に遺伝子異常が生じ、数年の経過を経てしばしば白血病などの造血器腫瘍を発症することを明らかにしました。
本研究成果は、米国科学誌「The New England Journal of Medicine」誌に6月25日(日本時間)に掲載されました。
研究者からのコメント
特定の遺伝子の変異は生存や骨髄異形成症候群・急性骨髄性白血病への移行と相関を認め、再生不良性貧血診断時やその経過中にクローンの検出を試みたり、検出されたクローンを長期に渡って観察したりすることは臨床上重要と考えられます。今後シーケンス技術を臨床の現場に導入することにより、白血病の早期診断、早期治療への応用が期待されます。
概要
近年、ゲノム解析の進歩により急性骨髄性白血病では種々の遺伝子に変異が蓄積していることが解明されていますが、これらの血液がんが発症する以前にどのような異常が生じているか、また初期の変化から発症までにどれくらいの時間を要するのかについては、白血病診断以前の試料を得ることが困難なため、ほとんどわかっていませんでした。
そこで、本研究グループは再生不良性貧血から白血病を発症する過程で生じている遺伝子変異の挙動を明らかにするため、439症例の再生不良性貧血の患者さんから数年間にわたって継時的に採取された668検体の血液試料について、次世代シーケンサーを用いて解析することにより、これらの血液試料に生じている遺伝子変異を解析しました。結果、以下の点が明らかになりました。
- 再生不良性貧血の患者の約では、経過中に白血病その他の血液がんで認められるような変異をもった細胞が出現する。
- これらの変異うち、約75%はPIGA・BCOR・BCORL1・DNMT3A・ASXL1の五つの遺伝子に生ずる。
- 個々の変異を有する細胞の経時的な挙動はしばしば予測が難しいが、DNMT3A、ASXL1変異を有する患者では、これらの変異をもった細胞が継時的に増加して白血病を発症し、予後不良の傾向が認められる一方、PIGA、BCOR、BCORL1変異を有する患者では、これらの変異をもった細胞が消失する傾向が認められ、予後も良好である。
再生不良性貧血の自然経過
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1056/NEJMoa1414799
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198738
Tetsuichi Yoshizato, Bogdan Dumitriu, Kohei Hosokawa, Hideki Makishima, Kenichi Yoshida, Danielle Townsley, Aiko Sato-Otsubo, Yusuke Sato, Delong Liu, Hiromichi Suzuki, Colin O. Wu, Yuichi Shiraishi, Michael J. Clemente, Keisuke Kataoka, Yusuke Shiozawa, Yusuke Okuno, Kenichi Chiba, Hiroko Tanaka, Yasunobu Nagata, Takamasa Katagiri, Ayana Kon, Masashi Sanada, Phillip Scheinberg, Satoru Miyano, Jaroslaw P. Maciejewski, Shinji Nakao, Neal S. Young, and Seishi Ogawa
"Somatic Mutations and Clonal Hematopoiesis in Aplastic Anemia"
The New England Journal of Medicine 373 pp. 35-47 July 2, 2015
- 日本経済新聞(7月2日夕刊 14面)に掲載されました。