小川誠司 医学研究科教授、滝田順子 東京大学医学部附属病院准教授、関正史 同医学系研究科大学院生、油谷浩幸 同先端科学技術研究センター教授らの共同研究グループは、次世代シーケエンサーとアレイ技術を用いて横紋筋肉腫60例のゲノム上にみられる遺伝子異常や構造変化、エピゲノムに見られる異常の全体像を解明しました。その結果、DNAメチル化のパターンから横紋筋肉腫は4群に分類されることを見出し、それぞれの群に起こりやすい遺伝子異常と病理所見および臨床的特性を明らかにしました。本研究成果は、横紋筋肉腫の予後予測、精度の高い分子診断法の開発に貢献し、治療の最適化の実現に役立つものと期待されます。
本研究成果は2015年7月3日(英国夏時間)にNature Communicationsのオンライン版で公開されました。
研究者からのコメント
今後はさらに治療背景の異なる大規模かつ独立したコホートに対して、検証を行う予定です。
本研究成果のポイント
- 筋肉や脂肪組織などから発生する小児期の腫瘍の一種、横紋筋肉腫の遺伝子異常、ゲノムの構造変化、DNAメチル化異常の全体像を解明
- DNAメチル化のパターンから横紋筋肉腫は4群に分類されることを見出し、それぞれの群に起こりやすい遺伝子異常と病理所見および臨床的特性を解明
- DNAメチル化異常に基づいて分類された群によって予後が異なることが明らかとなり、正確な分子診断による治療の最適化に役立つものと期待
概要
横紋筋肉腫(RM)は、筋肉など軟部組織とよばれる組織に発生する小児期の腫瘍のうち最も頻度が高いものです。全体として約70%の治癒が望めますが、遠隔転移を伴う例は、集学的治療を行っても50%未満の治癒率です。
本研究グループは、RMS計60例の新鮮腫瘍からDNAを採取し、まず16例について全エクソン領域を解読し、検出された重複する腫瘍特有の変異に関して、全60例について次世代シーケンサーを用いた変異解析を行いました。また50例においてDNAメチル化アレイ解析を行い、クラスタリングという手法を用いてDNAメチル化のパターンから4群に分類し、E1、E2、A1、A2と名付けました(図)。さらに全例につきSNPアレイによるゲノムコピー数の解析も行うとともに、得られたゲノム異常と生存期間などの臨床情報を比較することにより、4群の特徴として以下のようなことを明らかにしました。
- 四つの群は病理組織分類であるERMSとARMSと相関しており、ERMSが含まれる群をE1とE2、ARMSが含まれる群をA1とA2と名付けました。
- E1/E2群においてFGFR4/PIK3CA経路に含まれるPTEN遺伝子の高いDNAメチル化が認められました。
- FGFR4/PIK3CA経路の異常は、E2群に有意に高頻度でした。
- E1に比べE2は有意に予後不良であり、ARMSに比べ予後は比較的よいとされるERMSにおける予後の不良な群を抽出することができました。
DNAメチル化のパターンによるRMSの分類
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms8557
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/198761
Masafumi Seki, Riki Nishimura, Kenichi Yoshida, Teppei Shimamura, Yuichi Shiraishi, Yusuke Sato, Motohiro Kato, Kenichi Chiba, Hiroko Tanaka, Noriko Hoshino, Genta Nagae, Yusuke Shiozawa, Yusuke Okuno, Hajime Hosoi, Yukichi Tanaka, Hajime Okita, Mitsuru Miyachi, Ryota Souzaki, Tomoaki Taguchi, Katsuyoshi Koh, Ryoji Hanada, Keisuke Kato, Yuko Nomura, Masaharu Akiyama, Akira Oka, Takashi Igarashi, Satoru Miyano, Hiroyuki Aburatani, Yasuhide Hayashi, Seishi Ogawa & Junko Takita
"Integrated genetic and epigenetic analysis defines novel molecular subgroups in rhabdomyosarcoma"
Nature Communications 6, Article number: 7557 Published 03 July 2015