接合数の偶数・奇数で電流の流れが全く異なる新しい現象 -注目物質「グラフェン」におけるパリティ効果を世界で初めて確立-

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小野輝男 化学研究所教授、小林研介 大阪大学理学研究科教授、松尾貞茂 東京大学工学系研究科助教および塚越一仁 物質・材料研究機構国際ナノアーキテクトニクス研究拠点主任研究者らの共同研究グループは、金属と半導体の両方の性質を持つグラフェン(単層グラファイト)中に形成されたpn接合での量子ホール状態の輸送現象にパリティ効果があることを理論的に予測し、実験によって検証することに成功しました。グラフェンは、特異な電子構造に起因する豊富な電子物性とその応用可能性のため、非常に注目を集めている物質です。

このパリティ効果は、光学干渉計で起きる現象と強い類似性を持つため、今後グラフェンにおける量子干渉素子の形成における指導原理となることが期待されます。

本研究成果は、2015年6月30日(英国時間)に「Scientific Reports」のオンライン版に発表されました。

研究者からのコメント

グラフェンとよく似た電子構造を持つトポロジカル絶縁体のpn接合などでも成り立つことが期待されると同時に、今後のpn接合における量子ホール状態の研究に寄与します。また、本研究を基に、グラフェン量子ホール状態の量子干渉素子の研究が発展していくことが期待されます。

概要

物理学では、整数値を取る物理量の偶奇性に依存して、物理現象が質的に全く異なる振る舞いを示すことがあります。このような物理量の偶奇性という抽象的な概念に基づいた現象の分類はパリティ効果と呼ばれ、物理現象の理解に極めて重要な役割を果たします。本研究グループはグラフェンと呼ばれる、単層グラファイトの輸送現象でみられるパリティ効果を発見し、その検証を行いました。

本研究グループは、グラフェンpn接合上にアンチドットと呼ばれる穴を作った場合に電子の輸送がどのような影響を受けるのかを評価しました。その結果、pn接合における量子ホール端状態の完全混合が起きる場合には、アンチドットの数に対する伝導度の振る舞いが、pn接合の数が偶数であるか奇数であるかによって決まってしまうこと(=パリティ効果)を理論的に発見しました。また、実際にこのパリティ効果を実証するため、グラフェンにアンチドットを作り、その上にトップゲート電極をのせることでアンチドット直上にpn接合が形成できるデバイスを作製し、pn接合の本数が1、2、3本のときの伝導度を測定しました。その結果、実験で得られた伝導度は、パリティ効果が得られた理論式とよい一致を示すことが明らかになりました。


図(a)はpn接合が偶数個のとき、(b)は奇数個のときの量子ホール端状態を流れる電流を示しています。この二つ場合の伝導度が質的に異なることを本研究では報告しています。(c)はパリティ実証に用いたグラフェン試料の光学顕微鏡写真です。拡大図の白線で囲んだ部分がアンチドットを持つグラフェン(グラファイト)で、αとβがトップゲート電極です。この試料ではpn接合が0、1、2、3本の場合を実現できます。

詳しい研究内容について

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep11723

[KURENAI] http://hdl.handle.net/2433/212054

Sadashige Matsuo, Shu Nakaharai, Katsuyoshi Komatsu, Kazuhito Tsukagoshi, Takahiro Moriyama, Teruo Ono & Kensuke Kobayashi
"Parity effect of bipolar quantum Hall edge transport around graphene antidots"
Scientific Reports 5, Article number: 11723 Published 30 June 2015

  • 科学新聞(7月10日 4面)に掲載されました。