村上佳世 経済学研究科研究員、依田高典 同教授、田中誠 政策研究大学院大学教授、Lee Friedman UCバークレー校教授らの研究グループは、コンジョイント分析と呼ばれる仮想的な消費者選択を通じて、消費者の原発比率や再エネ比率に対する金銭的な支払意思額を計測するとともに、米国消費者の支払意思額との比較分析について調査しました 本研究成果は、Elsevierの「Energy Economics」誌に掲載されました。
研究者からのコメント
2030年時点の望ましい電源構成「ベストミックス」について、政府内で検討が進んでいます。経済産業省は、原発比率を20~22%、再生可能エネルギーを22~24%とする方向で調整を進めています。こうした供給側重視の見方を否定するものではありませんが、他方で、消費者が個別具体的な電源構成に対して、どれだけの支払い意志を持っているのかという需要側の見方も必要です。我々は、こうしたベストミックスに対する消費者受容度を計量的に測定しました。
概要
昨今、2030年時点の望ましい電源構成「ベストミックス」について、政府内で検討が進んでいます。この大きな政策的議論の中で、日本の消費者の受容度に関する精緻な定量的分析を行った研究はほとんどありませんでした。本研究グループはコンジョイント分析と呼ばれる仮想的な消費者選択を通じて、消費者の原発比率や再エネ比率に対する金銭的な支払意思額を計測するとともに、米国消費者の支払意思額との比較分析も行いました。
まず、日米消費者に対して、環境やエネルギーに関する定性的な意識調査を行い、その後、計量経済学的な定量的分析の結果、ベストミックスに関する消費者の受容度について、以下のような結果が得られました。
- 再エネ比率を10%上昇(火力電源を代替)するプランに対して、日本の消費者は月間電気代が310円上昇することが妥当と考える。他方で、米国の消費者は、およそ700円上昇してもよいと考えている。
- 原発比率を10%上昇(火力電源を代替)するプランに対して、日本の消費者は月間電気代が720円下落しないと釣り合いがとれないと考える。他方で、米国の消費者は、およそ100円の下落で十分と考えている。
- 温室効果ガス排出量を10%削減するプランに対して、日本の消費者は月間電気代が260円上昇することが妥当と考える。米国の消費者も、およそ300円上昇してもよいと考えている。
経済産業省案 (2030年目標) | 代替案1 (原子力重視) | 代替案1 (再エネ重視) | |
---|---|---|---|
月額電気料金 | \8,500 | \7,378 | \10,766 |
温室効果ガス排出削減量 (Nox、SO2、CO2) | -22% | -34% | -22% |
化石燃料 | 56% | 36% | 56% |
原子力 | 22% | 42% | 0% |
再生可能エネルギー | 12% | 12% | 34% |
水力 | 10% | 10% | 10% |
日本の消費者は、経済産業省の2030年度電源構成案に対して、月額電気料金8,500円をベースとして、
1. 原子力重視案で、月額電気料金1,122円の下落
2. 再エネ重視案で、月額電気料金2,266円の増加
で心理的に釣り合いがとれると考える。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.eneco.2015.05.002
Kayo Murakami, Takanori Ida, Makoto Tanaka, Lee Friedman
"Consumers' willingness to pay for renewable and nuclear energy: A comparative analysis between the US and Japan"
Energy Economics Volume 50 Pages 178–189, Available online 10 June 2015
- 朝日新聞(6月2日 24面)および京都新聞(6月2日 25面)に掲載されました。