歯周病と関節リウマチ発症との相関を示す

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橋本求 医学部附属病院リウマチセンター特定助教と別所和久 医学部附属病院教授を中心とする共同研究グループは、約1万人の健常人を対象とした疫学調査、および京大病院リウマチセンターを未治療・未診断で受診した72名の関節痛患者の追跡調査によって、歯周病の罹患が関節リウマチの発症に影響を与える可能性があることを示しました。

本研究は下記二つの成果を発表するものであり、研究成果1は、英文誌「Journal of Autoimmunity」の電子版に2015年3月26日に、研究成果2は、英文誌「PLOS ONE」の電子版に2015年4月7日にそれぞれ掲載されました。

本研究の二つの成果

  1. 約1万人の健常人を調査し、関節リウマチに特異度の高い抗シトルリン化蛋白抗体の産生とその力価に歯周病罹患が相関することを示しました。
  2. 京大病院リウマチセンターを受診した未治療・未診断の関節痛患者72名の追跡調査により、歯周病をもつ関節痛患者は、歯周病のない患者に比較して、その後関節リウマチと診断され抗リウマチ治療を開始されるリスクが約2.7倍高くなることを示しました。

研究者からのコメント

歯周病と関節リウマチの関連については、たくさんの既報がありますが、今回の研究は、歯周病が関節リウマチの発症に関与する可能性をより強く示すものといえます。ながはまコホートに登録された患者さんが、今後リウマチを発症するか追跡調査することによって、その関係性がより明確になると考えられます。一方で、歯周病が関節リウマチの発症に影響を及ぼすメカニズムが抗CCP抗体の誘導だけなのか、あるいはポルフィロモナス菌が特に関係しているのか等の点については、今後さらなる研究が必要と考えられます。

概要

歯周病は、30歳以上の成人の約80%が罹患している慢性疾患で、口腔内のみならず、虚血性心疾患や脳卒中など全身のさまざまな疾患に影響を与えていることが知られています。その中でも最近特に、歯周病と関節リウマチとの関係が最近注目されています。関節リウマチ患者の約8割の血液中には、抗シトルリン化蛋白抗体(抗CCP抗体)という、シトルリン化という反応を経たタンパクを認識する抗体(血清マーカーの一種)が検出されますが、この抗体はしばしば関節リウマチの発症に先立って検出されます。また近年、歯周病菌の一種であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌(ポルフィロモナス菌)が、現在知られている中で唯一シトルリン化を起こす酵素を産生する細菌であることが報告されました。そのため、歯周病の罹患が、この歯周病菌の持つシトルリン化酵素による過剰なシトルリン化を介して、関節リウマチの発症に先立って検出される抗CCP抗体の産生を引き起こし、ひいては関節リウマチの発症につながっているのではないかと考えられるようになったのです。

しかし、上記の仮説を証明するためには、まだ関節リウマチを発症していない健常者や、未治療の関節痛患者さんにおいて、歯周病の罹患が抗CCP抗体の産生や、関節リウマチの発症に与える影響を解析する必要がありました。

そこで本研究グループは、約1万人の健常人を対象とした疫学調査、および、京大病院リウマチセンターを未治療・未診断で受診した72名の関節痛患者の追跡調査によって、歯周病の罹患が関節リウマチの発症に影響を与える可能性があることを示しました。歯周病と関節リウマチには疫学的相関があることは昔から知られており、近年、特に注目を浴びていますが、本研究はこれら二つの疾患の間に因果関係があることを示唆するものです。


図:未治療の関節痛患者を、歯周病の評価(歯茎の腫れによる歯周病の有無(a)、歯茎のやせによる歯周病の重症度分類(b)、歯周プラークにおけるポルフィロモナス菌の有無(c))により分類し、それらの患者が経過観察中に抗リウマチ治療(メトトレキサート)を開始されることに対する相対リスクを示す。(研究成果2より引用)

詳しい研究内容について

歯周病と関節リウマチ発症との相関を示す

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.jaut.2015.03.002

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197526

Chikashi Terao, Keita Asai, Motomu Hashimoto, Toru Yamazaki, Koichiro Ohmura, Akihiko Yamaguchi, Katsu Takahashi, Noriko Takei, Takanori Ishii, Takahisa Kawaguchi, Yasuharu Tabara, Meiko Takahashi, Takeo Nakayama, Shinji Kosugi, Akihiro Sekine, Takao Fujii, Ryo Yamada, Tsuneyo Mimori, Fumihiko Matsuda, Kazuhisa Bessho, on behalf of the Nagahama Study Group
"Significant association of periodontal disease with anti-citrullinated peptide antibody in a Japanese healthy population – The Nagahama study"
Journal of Autoimmunity Available online 26 March 2015

[DOI] http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0122121

[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/197451

Motomu Hashimoto, Toru Yamazaki, Masahide Hamaguchi, Takeshi Morimoto, Masashi Yamori, Keita Asai, Yu Isobe, Moritoshi Furu, Hiromu Ito, Takao Fujii, Chikashi Terao, Masato Mori, Takashi Matsuo, Hiroyuki Yoshitomi, Keiichi Yamamoto, Wataru Yamamoto, Kazuhisa Bessho, Tsuneyo Mimori
"Periodontitis and Porphyromonas gingivalis in Preclinical Stage of Arthritis Patients"
PLOS ONE 10(4): e0122121 Published: April 7, 2015