松林順 理学研究科大学院生、森本淳子 北海道大学農学研究院准教授、陀安一郎 総合地球環境学研究所教授らの研究グループは、日本の北海道に生息するヒグマを対象に安定同位体分析を用いた食性解析を行い、ヒグマの歴史的な食性の変化を調べた結果、かつての北海道のヒグマは、現代に比べてシカやサケといった動物質を多く利用していたことがわかりました。また、この食性の大きな変化が、北海道での開発が本格化した明治時代以降に急速に生じたことを明らかにしました。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」(電子版)に2015年3月17日付けにて掲載されました。
研究者からのコメント
本研究では、安定同位体分析という手法により、過去から現在までのヒグマの食性の変化の歴史を明らかにしました 。ヒグマの大規模な食性の変化が生じた時期が、ちょうど明治以降の開発が本格化した時期と一致していたことが非常に興味深い点です 。人の開発に伴う同様の食性の変化は、北太平洋の沖合を餌場とするハワイミズナギドリでも報告されています。本研究を足がかりとして、人の活動が食物網に与えた影響に関する研究がより一層発展することが期待されます。
概要
ヒグマ( Ursus arctos )は、北半球の広範囲に分布する大型の雑食動物です(図)。雑食動物の中でも、ヒグマの食性は「日和見的な雑食性」と呼ばれており、食物資源の可給性に応じて食性を大きく変化させるという特徴があります。彼らが利用する食物資源はさまざまで、植物の茎葉や果実のほか、昆虫、哺乳類やサケなど、その地域や季節に利用できるさまざまな資源を利用しています。特に、大型の有蹄類やサケの仲間が多く分布している北アメリカでは、ヒグマは動物性の食物を多く利用しています。
日本の北海道にもヒグマが分布しています。それでは、北海道のヒグマは何を食べているのでしょうか? ヒグマの食べ物といえばサケというイメージが強いと思いますが、これまでの調査から、北海道のヒグマはフキやセリ科などの草本やヤマブドウ・サルナシの果実といった植物質中心の食性だということが分かっています。北海道ではエゾシカやサケが分布しているのに、ヒグマはなぜ植物質中心の食生活を送っているのか、本研究チームはかねてから疑問に感じていました。
そこで本研究チームは、日本の北海道に生息するヒグマを対象に安定同位体分析を用いた食性解析を行い、ヒグマの歴史的な食性の変化を調べました。その結果、かつての北海道のヒグマは、現代に比べてシカやサケといった動物質を多く利用していたことがわかりました。また、この食性の大きな変化が、北海道での開発が本格化した明治時代以降に急速に生じたことを明らかにしました。
図:サケを食べるヒグマ(知床財団・野別貴博氏提供)
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep09203
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/196586
Jun Matsubayashi, Junko O. Morimoto, Ichiro Tayasu, Tsutomu Mano, Miyuki Nakajima, Osamu Takahashi, Kyoko Kobayashi & Futoshi Nakamura
"Major decline in marine and terrestrial animal consumption by brown bears (Ursus arctos)"
Scientific Reports 5, Article number: 9203 Published 17 March 2015
掲載情報
- 京都新聞(4月15日夕刊 8面)、産経新聞(3月28日夕刊 8面)、日本経済新聞(3月28日夕刊 8面)、毎日新聞(4月4日夕刊 6面)および読売新聞(4月23日 33面)に掲載されました。