生体内で生じる代謝変動の全貌に迫る -メタボローム解析による新たな薬の効き方の発見-

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高橋春弥 農学研究科研究員、後藤剛 同准教授、河田照雄 同教授らの研究グループは、かずさDNA研究所と共同研究を行い、最先端の分析技術であるメタボローム解析を駆使して、脂質代謝に重要なPPARα(ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体:peroxisome proliferator-activated receptor)を活性化した際に、肥満・糖尿病モデルマウスの血中代謝物にどのような変動が生じるのか、その網羅的解析を行いました。その結果、脂質異常症治療薬投与によりPPARαを活性化させた際の血中代謝物変動の全体像を明らかにすると同時に、血糖値制御作用があるLPC(16:0)と呼ばれる代謝物の血中濃度が特徴的に変動することを見出しました。また、この代謝物の生成機構と脂質異常症治療薬の新たな効き方の一端を明らかにしました。

本研究成果は、2015年2月15日付の米国科学雑誌「Journal of Lipid Research」誌に掲載されました。

研究者からのコメント

今回の研究では、肥満糖尿病マウスに薬剤を投与する、いわば特殊な「薬理的条件下(病気を発症した条件下)」で、脂質代謝を制御する極めて重要な因子であるPPARαを活性化させた際のメタボローム解析を行いました。今後はヒトでの実証研究や、より一般的な「生理的条件下(通常の健康な条件下)」に焦点を当てたメタボローム解析を進めたいと考えています。

また、本研究で着目したPPARαは、今回用いた薬剤だけでなく、食品中に含まれる天然物によっても活性化されます。今後は、食品由来PPARα活性化成分をマウスに摂食させた際の代謝物解析に、本研究で得られた知見を応用することで、食後に生じる代謝変動の全貌に迫り、新規の機能性食品創出等に役立つ新たな知見を得ていきたいと考えています。

概要

慢性的な脂質代謝異常は生活習慣病発症につながるため、現代の飽食社会において、脂質代謝異常の予防・改善は極めて重要です。脂質異常症治療薬の一種であるフィブラート系薬剤は主にPPARαの活性化を介してその薬効を発揮します。しかし、PPARαが活性化された後、最終的に生体内でどのような代謝変動が生じているのか、その全貌については不明確な点が多く残されています。

そこで本研究では、最先端の分析技術であるメタボローム解析を駆使して、脂質代謝に重要なPPARαを活性化した際に、肥満・糖尿病モデルマウスの血中代謝物にどのような変動が生じるのか、その網羅的解析を行いました(図左)。

その結果、脂質異常症治療薬投与によりPPARαを活性化させた際の血中代謝物変動の全体像を明らかにすると同時に、血糖値制御作用がある LPC(16:0)と呼ばれる代謝物の血中濃度が特徴的に変動することを見出しました。また、この代謝物の生成機構の一端を明らかにしました。

また、今回メタボローム解析で特定されたLPC(16:0)は、血糖値低下作用を有すること、および肥満・糖尿病進行時に血中濃度が低下することが知られています。そのため、本研究によって、フィブラート系薬剤がLPC(16:0)を介し、血糖値制御、すなわち糖代謝異常改善に寄与している可能性が新たに示されました(図右)。本研究から、LPC(16:0)の生合成機構が、糖・脂質代謝異常の予防あるいは改善に重要なターゲットとなり、将来的に新規の治療薬や機能性食品の創出につながることが期待されます。


図:本研究概要図

(左)メタボローム解析の概要、(右)LPC(16:0)の生成・作用機構モデル

詳しい研究内容について

生体内で生じる代謝変動の全貌に迫る -メタボローム解析による新たな薬の効き方の発見-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1194/jlr.M052464

Haruya Takahashi, Tsuyoshi Goto, Yota Yamazaki, Kosuke Kamakari, Mariko Hirata, Hideyuki Suzuki, Daisuke Shibata, Rieko Nakata, Hiroyasu Inoue, Nobuyuki Takahashi, and Teruo Kawada
"Metabolomics reveal 1-palmitoyl lysophosphatidylcholine production by peroxisome proliferator-activated receptor α"
Journal of Lipid Research 56(2) pp. 254-265 February 2015