膜輸送バランスが抗真菌薬の活性発現に重要であることを解明 -新しい治療戦略への応用に期待-

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公開日

掛谷秀昭 薬学研究科教授、西村慎一 同助教、徳倉将人 同学部生らの研究グループと、吉田稔 理化学研究所主任研究員らの研究グループは、細胞膜ステロールを標的にする抗真菌薬の作用には、細胞膜を構成する成分の膜輸送のバランスが重要であることを明らかにしました。今後、新しい抗真菌薬や治療法の開発への応用が期待されます。

本研究内容は、2014年12月11日に米国科学誌「Chemistry & Biology」にオンライン掲載されます。

研究者からのコメント

左から、掛谷教授、西村助教、徳倉学部生

細胞膜脂質の一つであるエルゴステロールを標的にする抗真菌薬の効果が、エキソサイトーシスとエンドサイトーシスという膜輸送のバランスに依存することを、ケミカルゲノミクス的解析と生化学的実験などにより明らかにしました。この膜輸送のバランスモデルはとてもシンプルですが、生体膜の化学的かつ生物学的な理解だけでなく、人工細胞の設計や、真菌症に対する新しい治療戦略への応用にもつながると考えています。

ポイント

  • 細胞膜ステロールを標的にする抗真菌薬の活性発現に「膜輸送バランス」が重要である。
  • マニュマイシンAという微生物由来の化合物は、細胞膜ステロールを標的にする抗真菌薬の作用を減弱させる。
  • ケミカルゲノミクス的解析と生化学的実験などにより、マニュマイシンAがエキソサイトーシスを阻害することを明らかにした。
  • 「膜輸送バランスモデル」を応用することで、新しい抗真菌薬の開発や治療法の開発が期待される。

概要

細胞膜は細胞の内外を仕切るバリアとしてだけでなく、細胞を形づくり、細胞外からの刺激を細胞内に伝えるなどの大切な機能を担っています。また、細胞膜は多くの抗生物質や細菌毒素が結合し薬理活性を発揮する場でもあり、治療薬や治療法の開発のためにも詳細な理解が求められている対象です。しかし脂質やタンパク質、糖鎖などの複雑な相互作用の上に成り立つ細胞膜は、細胞生物学において最も解析が困難な研究対象の一つです。実際、50年以上使われている抗真菌薬の作用メカニズムでさえも、正確に理解できていないのが現状です。

抗真菌薬には細胞膜に存在するステロールに結合して効果を示すものがあります。本研究では、その作用をマニュマイシンAという微生物由来の化合物が阻害することを見出し、それをきっかけに、細胞膜の輸送バランスが抗真菌薬の作用に重要であることを明らかにしました。すなわち、未解明であったマニュマイシンAの作用機序を調べると、この化合物は細胞膜や細胞外にタンパク質などの物質を運ぶ輸送(エキソサイトーシス)を低濃度で抑え、一方、細胞膜や細胞外の物質を取りこむ輸送(エンドサイトーシス)には高濃度でも穏やかな阻害しか示さないことが明らかになりました。詳細に検討した結果、抗生物質の標的となる細胞膜ステロールはエキソサイトーシスによって細胞膜へ運ばれ、エンドサイトーシスによって細胞膜から取り込まれるというモデルの提案に至りました(図)。

今後、エキソサイトーシスにより運ばれる膜小胞を構成する分子(脂質やタンパク質)の種類と量が明らかになれば、細胞にとってのステロール分子の役割が明らかになり、ステロールを標的にする抗生物質の作用機序がより包括的に理解できると考えています。また、膜輸送のバランスを調節することで抗真菌薬の作用を制御する、新しい治療法の開発も期待されます。


膜輸送バランスモデルのイメージ図

エキソサイトーシス(赤矢印)とエンドサイトーシス(青矢印)のバランスによって、ステロールに富み、抗生物質に認識される細胞膜ドメインの形成が制御されています。
(左)正常に増殖中の分裂酵母では細胞末端にステロールを標的にする抗生物質が結合する膜ドメインが存在しますが、(右)この膜ドメインは、薬剤処理や遺伝子の強制発現によりエキソサイトーシスのみを抑制すると消失します。このとき、細胞膜ステロールを認識する抗生物質の効果も減弱します。

詳しい研究内容について

膜輸送バランスが抗真菌薬の活性発現に重要であることを解明 -新しい治療戦略への応用に期待-

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.chembiol.2014.10.014

Shinichi Nishimura, Masato Tokukura, Junko Ochi, Minoru Yoshida, Hideaki Kakeya.
"Balance between exocytosis and endocytosis determines the efficacy of sterol-targeting antibiotics"
Chemistry & Biology,  vol. 21. Available on line 11 December 2014.

掲載情報

  • 日刊工業新聞(12月12日 23面)および科学新聞(1月9日 4面)に掲載されました。