明和政子 教育学研究科教授、田中友香理 同大学院生らの研究グループは、1~2歳児を養育中の母親と養育経験のない女性の脳の活動を比較しました。その結果、母親は「赤ちゃんことば(乳児向けの特別な抑揚を含んだ音声語)」で発せられた触覚語(つるつる、ふわふわ等)に対し、より敏感な脳活動がみられました。さらに、日常の養育場面において、触覚語を子どもに頻繁に使うと回答した母親ほど、脳活動が明瞭であることがわかり、養育経験が成人の脳の働きかた(脳活動パターン)に影響することが明らかとなりました。
本研究成果は、2014年10月17日(日本時間午後6時)発行の「Scientific Reports」オンライン版に掲載されました。
研究者からのコメント
社会環境が目まぐるしく変化する現代社会。今ほど子どもが育つ条件について考えることが求められている時代はありません。私たちは、基礎研究を通して、科学的証拠に基づく正しい子育ての理解を社会に伝えることを目指しています。
本研究は、子どもが育つ条件を、子どもだけでなく、子どもを育てる側も含めて(セットで)考えることの重要性を示したものです。こうした成果を蓄積することで、養育者の心身にとって真に適切な支援システムの開発、それを社会に実装するための挑戦をこれからも続けていきたいと思っています。
概要
私たちは、乳児の目を見つめ、その身体や玩具に触れ、話しかけます。このように、さまざまな身体感覚(視覚や聴覚・触覚など)を積極的に介した養育行動を行う動物はヒトだけです。ヒトの養育行動は、母子間の愛着を形成する、子どもが学習する機会を提供するなど、重要な役割を果たすことが指摘されてきました。しかし、養育行動を日々経験することが、養育者の側の行動や脳にどのような影響を与えるのかについては、ほとんどわかっていませんでした。
そこで本研究グループは、養育行動の中でもとくに「触覚」と「聴覚」に着目し、養育経験が脳にどのような影響をもたらすのかを実証的に明らかにしようと考えました。調査には、1歳半から2歳の乳児を養育中の母親17人と、これまで養育経験がない女性(以下、非母親)17人が参加しました。彼女たちに、触覚刺激(やわらかい布、紙やすり等)に触れてもらい、その直後に「触覚語(ふわふわ、ざらざら等)」を表現した音声刺激をスピーカーから流しました。その時の脳活動(ERP)を計測し、触覚語を脳内でどのように処理しているのかを調べました(図)。
その結果、母親は「赤ちゃんことば(乳児向けの特別な抑揚を含んだ音声語)」で発せられた触覚語(つるつる、ふわふわ等)に対し、より敏感な脳活動を示しました。養育経験のない女性では、こうした反応はみられませんでした。さらに、日常の養育場面において、触覚語を子どもに頻繁に使うと回答した母親ほど、脳活動が明瞭であることがわかり、養育経験が成人の脳の働きかた(脳活動パターン)に影響することが明らかとなりました。
参加者は、まず触覚刺激に触れ、その直後に「触覚語(ふわふわ等)」を表現した音声刺激を聞いた。最後に、直前に聞いた音声刺激と一致する単語を、ボタン押しにより選択した(どう聞こえたかを確認するため)。この一連の流れの脳活動を、脳波計により計測した。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/srep06623
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191017
Yukari Tanaka, Hirokata Fukushima, Kazuo Okanoya & Masako Myowa-Yamakoshi
"Mothers' multimodal information processing is modulated by multimodal interactions with their infants"
Scientific Reports 4, Article number: 6623 Published 17 October 2014
掲載情報
- 産経新聞(10月18日 29面)、中日新聞(10月26日滋賀版 23面)、日本経済新聞(10月19日 38面)および毎日新聞(10月25日 24面)に掲載されました。