東樹宏和 人間・環境学研究科助教を中心とする国際共同研究チーム(京都大学、ブラジル・サン・パウロ大学、デンマーク・オーフス大学、米・カリフォルニア大学)は、森の中で共存する多様な植物種が無数の真菌類(きのこ・かび類)と根で共生していることに注目し、その「植物-真菌ネットワーク」の複雑かつ特殊な構造を解明することに成功しました。
この発見は、「なぜ一つの森や草原の中で多様な植物種が共存できるのか」という問いに答える上で、また、「植物が養分を得る上で、土壌中の真菌が全体としてどう機能しているのか」解明する上で、新たな理論的基礎を提供すると期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」誌に掲載される予定です。
研究者からのコメント
大規模DNAバーコーディングとネットワーク理論を統合した今回の研究手法は、多様な生物種が共存するしくみをより深く理解していく上で、今後重要な土台となっていくと期待されます。また、この手法により、土壌中に無数に存在する微生物が、農地における作物種とどのような関係を構築しているのか、その全体像を効率的に把握することが可能になります。
しかし、共生ネットワーク内に存在する真菌の中には、植物にとって何の利益ももたらさないものや、むしろ寄生的に働くものも含まれていると想像されます。 そのため、個々の真菌種の役割を効率的に評価する技術をさらに開発する必要があります。今後も研究を進め、森林生態系の再生や微生物を活かした農地管理の 基礎技術に結びつけていきたいと思います。
概要
現在地球上に存在する陸上植物のうち、種数にして少なくともその90%が、根に真菌類(きのこ・かび)を共生させています。この真菌類は、土壌中の窒素やリンといった養分を植物に供給する一方、植物から糖類を報酬として受け取ることで、持ちつ持たれつの関係を形成しています。生態系の基礎的理解の面でも、また、農業における応用面でも、こうした植物と真菌類の関係は重要です。しかし、その複雑な共生関係の全体像を把握することは困難とされてきました。
この現状を打破する技術として注目されているのが、「DNAバーコーディング」という技術です( 「あらゆる生物の名前をDNAに基づいて特定する「DNAバーコーディング」の理論的枠組みを確立」 (2013年10月19日発表)を参照)。東樹助教らは、DNAバーコーディングで得られた植物根内の真菌類に関するデータを統合することで、どの植物種とどの真菌種がつながっているのかを解析しました。
その結果、さまざまな機能をもった真菌種が、複雑なネットワーク構造のもとに植物種間で共有されていることがわかりました(図)。この植物-真菌ネットワークは、植物とその花粉や種子を運ぶ動物との共生関係などで研究されてきたネットワークと比べて、種と種のつながりかた(ネットワーク構造)の面で根本的に異なる性質をもっていました。
この成果は、「本来、資源を奪い合う競争関係にあるはずの植物種たちが、なぜ一つの森で共存できるのか」を解明する上で、新たな理論の土台となります。また、これまで全体像の把握が難しかった無数の地下真菌と植物との関係を統合的に解析できるようになったため、今後、農地の微生物群の機能理解に貢献していく可能性があります。
図:植物と共生真菌のネットワーク構造
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms6273
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191020
Hirokazu Toju, Paulo R. Guimarães, Jens M. Olesen & John N. Thompson
"Assembly of complex plant–fungus networks"
Nature Communications 5, Article number: 5273 Published 20 October 2014
掲載情報
- 日刊工業新聞(10月24日 19面)および科学新聞(11月7日 2面)に掲載されました。