2014年9月8日
白石誠司 工学研究科教授と安藤裕一郎 同助教の研究グループは、TDK株式会社、秋田県産業技術センターのグループと共同で、現在のCMOS(相補型金属酸化膜半導体)トランジスタの抱える技術的限界を突破できる次世代の情報デバイスとも言えるスピンMOSトランジスタ(金属酸化膜半導体型電界効果トランジスタ)の室温動作に世界で初めて成功しました。
本研究成果は、米国物理学会科学誌「Physical Review Applied 」誌の電子版に9月11日に公開の予定です。
研究者からのコメント
今回の共同研究は、大学(京都大学)・公立研究機関(秋田県産業技術センター)・民間企業(TDK)という産官学の理想的な共同研究スキームによって成功裏にドライブすることができました。共同研究の開始は2008年頃でしたが、実は当時6年後にここまで到達できるとは個人的には予想もしていませんでした。
6年間、時に辛いこともありましたが、研究を楽しみながら挑戦し続けたことが結実し、大変嬉しく思っています。
概要
CMOSトランジスタの微細化によって低消費電力化と高速動作を可能としてきたシリコンベースの集積回路は、微細加工の限界に起因するスケーリング則の限界に直面しつつあります。また、CMOSトランジスタを用いた集積回路は一般に情報が揮発性であり、情報の維持に常に電力が必要であるために、省エネルギーの観点からも大きな課題を抱えています。そのため、次世代の高度情報化社会の中核を担う新動作原理を有する低消費電力、かつ不揮発記憶機能を備えた革新的情報デバイスの実現が希求されてきました。
そのような革新的デバイスの一つが、電子の有するスピン自由度を活用したスピンMOSFETです。特にシリコンを用いたスピンMOSFETは、シリコンがほぼ無尽蔵(ユビキタス)に自然界に存在し無毒であること、シリコンでは情報伝播に用いるスピン角運動量が比較的長時間保持できることが期待されること、さらに従来のシリコンエレクトロニクスにおける技術面・インフラ面での蓄積がそのまま利用可能であることから、2007年頃から世界中でその実現に向けて活発に研究が進められてきました。
シリコンスピンMOSFETの実現には、シリコン中でスピンの伝導を実現すること、さらにその伝導を外部電場で制御することが必要です。前者については2011年に本研究グループによってn型シリコンで、2013年には白石グループがp型シリコンで、それぞれ室温で実現していましたが、スピンの伝導が縮退半導体領域のシリコンでしか実現していなかったため、後者の実現が困難であり、新たなチャレンジが求められていました。
そこで本研究グループは、室温におけるシリコン中のスピン伝導の検証と磁気抵抗効果の観測を行いました。その結果、室温において非縮退シリコン中での室温スピン伝導を世界で初めて成功したことが確認されました。
シリコンスピンMOSFETの構造図
鉄(Fe)からシリコン(Si)に注入されたスピンの伝導はシリコン基板側にあるBack gateから印加するゲート電圧(Gate voltage)によって制御する。
詳しい研究内容について
シリコンを用いたスピントランジスタの室温動作を世界に先駆けて実現 -半導体スピントロニクスにおける重要なマイルストーンを実現-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1103/PhysRevApplied.2.034005
Tomoyuki Sasaki, Yuichiro Ando, Makoto Kameno, Takayuki Tahara, Hayato Koike, Tohru Oikawa, Toshio Suzuki, and Masashi Shiraishi
"Spin Transport in Nondegenerate Si with a Spin MOSFET Structure at Room Temperature"
PHYSICAL REVIEW APPLIED 2(3), 034005 Published 10 September 2014
掲載情報
- 日刊工業新聞(9月9日 22面)、日本経済新聞(9月9日 14面)および日経産業新聞(9月9日 8面)に掲載されました。