2014年8月22日
三嶋理晃 医学研究科教授の研究グループは、長船健二 iPS細胞研究所(CiRA)准教授、小川誠司 医学研究科教授らの研究グループと共同研究を行い、ヒトiPS細胞から肺胞前駆細胞への分化を経て、世界で初めてヒトiPS細胞由来の肺胞上皮細胞を単離する方法を確立しました。
本研究成果は、2014年8月21日正午(アメリカ東部時間)に「Stem Cell Reports」のオンライン版で公開されることになりました。
研究者からのコメント
ヒトiPS細胞からII型肺胞上皮細胞の分化誘導と単離というプロセスが確立したことで、これまで難しかったヒトの細胞を使った肺の再生研究やさまざまな難治性疾患の研究に踏み込める大きなチャンスが到来したと考えております。
概要
ヒトiPS/ES細胞から目的の細胞を手に入れるためには、発生のプロセスに従って分化誘導させることが標準的な手法と考えられていますが、分化誘導方法を確立するためには、段階を経るごとに低下しがちな誘導効率の問題をいかに克服するかが重要とされてきました。
そこで、三嶋教授、後藤慎平 医学研究科研究生、伊藤功朗 同助教/物質-細胞統合システム(iCeMS)拠点連携助教らの研究グループは、肺胞上皮細胞の前段階にあたる肺胞前駆細胞を単離濃縮できるような表面蛋白質の同定が重要と考え、まずは未分化なヒトiPS/ES細胞を分化させ、肺胞前駆細胞を効率よく誘導できる条件を検討しました。
その結果、Carboxypeptidase M(CPM)が有用な表面蛋白質であることを突き止めました。また、肺胞を作るのに不可欠なII型肺胞上皮細胞の分化誘導に目標を定め、この細胞に特異性の高いSurfactant Protein C(SFTPC)の遺伝子座に蛍光タンパク質であるGFPを導入し、分化すると光るヒトiPS細胞を作成しました。さらに、CPMを使って単離した肺胞前駆細胞を3次元培養することで、肺胞上皮細胞を分化誘導し、GFPを使ってII型肺胞上皮細胞を単離できることも示しました。肺胞の形成に不可欠なII型肺胞上皮細胞の分化誘導と単離が可能になったことで、今後の肺の再生研究だけでなく、肺胞上皮細胞の異常が引き金になると考えられている呼吸器難病の病態の理解や難病治療薬の開発を含めた創薬研究に向け、大きな一歩となることが期待されます。
図1(左):II型肺胞上皮細胞に分化するとGFPが光るヒトiPS細胞を作成し、3次元培養で光ることを証明しました。(緑:GFP)
図2(右):GFP陽性細胞と陰性細胞をそれぞれ単離してみるとGFPとSFTPCが高い一致率であることがわかりました。(緑:GFP、赤:SFTPC、青:核)※図中のバーは100µmを示す。
詳しい研究内容について
ヒトiPS細胞から肺胞上皮細胞を分化誘導し、単離する方法を確立 -肺の再生/創薬研究につながる大きな一歩-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1016/j.stemcr.2014.07.005
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/190413
Shimpei Gotoh, Isao Ito, Tadao Nagasaki, Yuki Yamamoto, Satoshi Konishi, Yohei Korogi, Hisako Matsumoto, Shigeo Muro, Toyohiro Hirai, Michinori Funato, Shin-Ichi Mae, Taro Toyoda, Aiko Sato-Otsubo, Seishi Ogawa, Kenji Osafune, and Michiaki Mishima
"Generation of Alveolar Epithelial Spheroids via Isolated Progenitor Cells from Human Pluripotent Stem Cells"
Stem Cell Reports Vol. 3 Available online 21 August 2014
掲載情報
- 朝日新聞(8月22日 4面)、京都新聞(8月22日 24面)、産経新聞(8月22日 26面)、日本工業新聞(8月22日 23面)、日本経済新聞(8月22日 38面)、毎日新聞(8月22日 2面)および読売新聞(8月22日 34面)に掲載されました。