2014年8月18日
中西和樹 理学研究科准教授、金森主祥 同助教、嶋田豊司 奈良工業高等専門学校物質化学工学科教授らの研究グループは、従来、ケイ素原子を含むシランカップリング剤を用いて、有機溶媒中100度以上の高温で10時間以上反応させなければならなかった、シリカゲルに代表される無機酸化物表面修飾を、合成が容易でしかも精製できる種々のヒドロシラン類と少量の特殊な触媒を用いることで、室温で5分以内に担持量をこれまでの1.5倍から2倍に増大させる簡易かつ高速プロセスを見い出しました。
本研究成果は、2014年8月8日午前1時(日本時間)に米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」誌の電子版(ASAP論文)に掲載されました。
研究者からのコメント
表面修飾は基材への機能付与に利用できますが、一般的に異種材料間結合は、それぞれの特性をもつ複合材料ができるだけでなく、新たな機能をもつ新規材料の創製にもつながります。本成果は、表面界面の制御によって、身の回りの目に見える材料に変革をもたらすだけでなく、分離・分析担体や触媒担体などの材料化学を支える基本技術にも大きく貢献することが期待でき、国内外における新材料開発研究への波及効果が極めて高いと思われます。
今後、種々の異種材料間結合形成へ応用し、材料化学、界面化学、有機化学、無機化学のみならず、低温処理が要求されるバイオテクノロジー分野への応用や分析化学、さらには医薬品合成などへも展開していきます。
概要
産業界で膨大な量が使用されている従来のアルコキシシランカップリング剤は、反応性、種類、取り扱いの面で問題があり、新規シランカップリング剤と迅速・高効率な新規プロセスの開発が半世紀にわたり待望されてきました。2003年に、この課題を部分的に解決できるアリルシランカップリング剤を開発しましたが、なお反応には高温・長時間を要しました。Si-H結合を有するヒドロシラン類は不飽和結合のヒドロシリル化などに広く使われますが、効率の良い表面修飾反応に利用された例はこれまでにありませんでした。
そこで本研究グループは、所望の官能基を有するヒドロシラン類を必要に応じて溶媒に溶解して液体状態とし、触媒を加えて反応させました。触媒は種々探索し、特に金属を含まない特殊な触媒が有効であることを見い出しました。この触媒を用いると、基材の表面にある水酸基とSi-H基の間で水素を発生する反応が速やかに起こり、基材と修飾官能基の間に共有結合が形成されました。
本手法は表面水酸基を豊富にもつガラス・セラミックスのみならず、天然および合成繊維・樹脂類の表面にも適用することができ、しかも室温・短時間で反応が進行します。耐熱性の低い基材のみならず、これまで物理的被覆等の非結合形成処理しかできなかった基材表面にも耐久性を付与できる、共有結合形成を伴う表面修飾が可能となりました。
少量の触媒存在下、室温、5分間でヒドロシラン誘導体をシリカゲル表面に効率的に担持した。その一例として、クマリンヒドロシランを用いるとUV照射により、鮮やかな蛍光発光が見られた。
詳しい研究内容について
室温・短時間(5分以内)で各種材料表面を修飾することに成功 -ガラス・セラミックス等の無機材料表面、天然および合成繊維・樹脂表面に迅速・高密度に機能分子を共有結合させる新技術に期待-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/ja504115d
Nirmalya Moitra, Shun Ichii, Toshiyuki Kamei, Kazuyoshi Kanamori, Yang Zhu, Kazuyuki Takeda, Kazuki Nakanishi, and Toyoshi Shimada
"Surface Functionalization of Silica by Si–H Activation of Hydrosilanes"
Journal of the American Chemical Society Publication Date (Web): August 6, 2014
掲載情報
- 京都新聞(9月27日 9面)に掲載されました。