2014年8月1日
山田泰裕 化学研究所特定准教授、金光義彦 同教授、若宮淳志 同准教授、遠藤克 同博士研究員らの研究グループは、新しい太陽電池材料として近年活発な研究が行われているハライド系有機-無機ハイブリッド型ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbI3)中の電子の振る舞いを解明しました。
本研究内容は、7月30日付けにて米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」誌(communications)オンライン版にて公開されました。
研究者からのコメント
ペロブスカイト半導体を使った太陽電池はこの2年の間にこれまでのどの材料にもない圧倒的なスピードで変換効率が上昇しており、一気に実用化も意識されるレベルにまで到達しています。私たちの研究グループでは、さらなる効率向上のためには基本的な性質を明らかにすることが重要であると考えて、本研究をスタートさせました。偶然にも化学研究所の隣の研究室同士で共同研究の体制を構築することができ、その近さを最大限に活かして研究を進めることができています。
今回の成果は、ペロブスカイト半導体を用いた効率的な太陽電池をデザインするために必要不可欠な知見となります。今後も私たちは、変換効率の向上においてカギとなる性質を明らかにし、ペロブスカイト太陽電池の発展に貢献する成果を挙げていきたいと思っています。
概要
無尽蔵の太陽光エネルギーを利用する太陽電池は、最も重要な再生可能エネルギー創出技術の一つとして、ますますその重要性が増しています。太陽光エネルギーをさらに有効に利用するため、安価でかつ高効率な太陽電池の実現に向けた熾烈な研究・開発競争が世界中で活発に行われています。現在、最も普及が進んでいるシリコン太陽電池の場合、太陽光エネルギーの電気エネルギーへの変換効率はおよそ25%に達していますが、さらなる太陽電池の普及のためには、低コスト化・高効率化が求められており、新たな太陽電池材料の開発研究が進められています。
ハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体(CH3NH3PbI3)は、2009年に初めて太陽電池材料として報告された材料ですが、基板やフィルムに「塗る」ことで作製できるという特徴をもちます。これを光吸収材料に用いたペロブスカイト太陽電池は「印刷技術」により作製でき、従来の太陽電池に比べて製造コストを大幅に下げることが可能な新たな太陽電池として世界中で急速に注目を集めています。2012年以降、その光電変換効率は驚異的な速さで改善が進み、一躍、次世代太陽電池研究の主役の座に躍り出ました。その効率は20%にも届こうとしており、実用化への期待も大いに高まっています。
しかしながら、急速に進む応用研究の一方で、高い変換効率をもたらす鍵となる基礎的な物性の理解はほとんど得られていませんでした。特に、太陽電池の最も本質的な物性の一つであり、さらなる効率向上のために必要不可欠である「光によって半導体中に形成される電子の振る舞い」については、これまで未解明のままでした。
本研究では、発光や光吸収の時間変化を追跡することで、ペロブスカイト半導体の薄膜中で光によって生成した電子の状態を明らかにすることに成功しました。その結果、これまでは有機太陽電池材料のように電子と正孔が励起子と呼ばれる束縛状態を形成すると考えられていましたが、実際には電子と正孔はそれぞれ自由に運動していることを初めて突き止めました。
ペロブスカイト半導体中の電子の振る舞いについての模式図
半導体にあるエネルギー以上の光を照射すると電子と正孔が作られ、これらが太陽電池での電力に寄与します。電子と正孔は励起子という互いに結合し合った状態をとる場合と、それぞれが独立に運動する場合(自由キャリア)があり、どちらの状態を取るかによって適切な太陽電池の構造が変わってきます。本研究で行った発光や光吸収分光の結果、これまで信じられてきたような励起子状態ではなく、電子と正孔が独立に運動していることが分かりました。
詳しい研究内容について
ペロブスカイト太陽電池中の電子の振る舞いを解明 -高効率太陽電池の実現に道-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1021/ja506624n
Yasuhiro Yamada, Toru Nakamura, Masaru Endo, Atsushi Wakamiya, and Yoshihiko Kanemitsu
"Photocarrier Recombination Dynamics in Perovskite CH3NH3PbI3 for Solar Cell Applications"
Journal of the American Chemical Society Publication Date (Web): July 30, 2014
掲載情報
- 日刊工業新聞(8月20日 22面)に掲載されました。