2014年6月26日
真下知士 医学研究科附属動物実験施設特定准教授、吉見一人 同特定研究員らの研究グループは、新しいゲノム編集技術CRISPR/Cas(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat/CRISPR-associated)を利用して、ラットの毛色に関わる遺伝子変異にさまざまなゲノム編集を行うことに成功しました。
また、CRISPR/Casの認識特異性を利用することで、父親(あるいは母親)由来の片側アレルだけを遺伝子改変する「アレル特異的ゲノム編集」にも成功しました。
本研究成果は、6月26日付けの英国科学誌「Nature Communications」(英国ネイチャー出版グループ オープンアクセス誌)に掲載されました。
研究者からのコメント
新しいゲノム編集技術CRISPR/Casを使うことで、非常に簡単に短期間で遺伝子改変マウスやラットを作製することが可能になりました。この技術により、これまでヒト疾患遺伝子として同定されたさまざまな欠失変異、SNP変異と同じ変異を有する「次世代のヒト疾患モデル動物」の作製が可能です。また、SNP変異の修復やレトロトランスポゾン挿入変異の回復など、未来の治療ストラテジーとしても期待しています。ゲノム編集技術は、これまでマウスでしか利用できなかった遺伝子改変技術が、ラットやその他の動物でも利用できることから、今後さまざまな分野に普及していくと考えています。
概要
実験用ラットは、高血圧、糖尿病、がん、てんかん、神経変性などさまざまなヒト疾患のモデル動物として利用されており、あらゆるヒト遺伝子変異に対応するモデル動物を作製するためには、さらに効果的な遺伝子改変技術が必要とされています。
CRISPR/Casシステムは、細菌や古細菌の持つ獲得免疫機構として発見され、近年、さまざまな生物種の細胞や個体における新しい遺伝子改変ツールとして、利用されるようになってきました。本研究では、このCRISPR/Casシステムを実験用ラットに利用することで、ラット個体におけるさまざまなゲノム編集を行いました。
今回、ラットチロシナーゼ(Tyr)遺伝子を標的とするガイドRNA(gRNA)、Cas9ヌクレアーゼ(Cas9)を作製して、ラット線維芽細胞株(Rat-1細胞)、あるいはウィスター系ラットの受精卵に導入することで、Tyr遺伝子のノックアウト、および1塩基多型(SNP)のノックインに成功しました。
また、ラットアルビノ(ヒトでは先天性白皮症)は、Tyr遺伝子の第2エクソンの一塩基置換変異によって起きることが報告されています。この一塩基多型(SNP)に対して、2種類のgRNAを作製することで、CRISPR/CasシステムがこのSNPを特異的に認識することが可能であることを発見しました。さらに、このCRISPR/CasのSNP認識特異性を利用することで、白色アルビノF344ラット(母親)と有色アグーチDAラット(父親)の間のF1ラット(子供)において、母親由来遺伝子だけを遺伝子改変(ノックアウト)、あるいは父親由来遺伝子アレルだけをノックアウトする「アレル特異的ゲノム編集」に成功しました。
実験用ラットの毛色遺伝子の変異として、(1)アルビノ(白色)c:Tyr遺伝子の一塩基置換、(2)ノンアグーチ(黒色)a:Asip遺伝子の19塩基欠失、(3)フード(頭巾班)h:Kit遺伝子のレトロトランスポゾン(7-Kb)挿入変異などが知られています。CRISPR/Casシステムと一緒に、一本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)を利用することで、三つの異なるラット毛色突然変異をゲノム編集して、ラットの毛色表現型を白色から野生色に修復することに成功しました。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/ncomms5240
[KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/188742
K. Yoshimi, T. Kaneko, B. Voigt & T. Mashimo
"Allele-specific genome editing and correction of disease-associated phenotypes in rats using the CRISPR–Cas platform"
Nature Communications 5, Article number: 4240 Published 26 June 2014
掲載情報
- 日刊工業新聞(6月30日 23面)に掲載されました。