細胞移植による糖尿病治療

ターゲット
公開日

2014年6月19日

岩田博夫 再生医科学研究所教授らの研究グループは、糖尿病ACIラットの皮下に塩基性繊維芽細胞増殖因子を含むアガロースロッドを埋め込むことで、移植された細胞や組織片への免疫反応が起きない免疫特典部位を作成することに成功しました。

また、この部位へ移植したF344ラット膵島(インスリン分泌組織)は免疫抑制剤を投与することなく生着し、100日を超える観察期間中血糖値が正常化し、糖尿病を治療することに成功しました。

本研究成果は、6月6日付のアメリカ移植学会およびアメリカ移植外科学会が提供する「American Journal of Transplantation」誌の電子版に掲載されました。

研究者からのコメント

岩田教授

人工透析は、それなくしては数週間も生きて行けない患者さんを10年さらに20年と生きて行けるようにする素晴らしい治療法です。ただ、そのためには患者さん一人当たり年間約500万円の医療費がかかります。透析導入の原疾患の第一位(44.2%)は糖尿病性腎症です。糖尿病を治すことで透析へ導入される患者数を劇的に減らすことが可能です。私たちのグループでは、長年インスリン分泌組織の移植による重症の糖尿病を治療する方法を研究してきました。私たちの目標は、(1)免疫抑制剤の投与を必要としない(2)皮下にインスリン分泌組織移植する(3)大量のインスリン分泌組織を確保する。今回の研究で、(1)と(2)を実現することが出来ました。(3)の問題も、近年ヒトiPS細胞からかなりの効率でインスリン分泌組織を分化誘導することが可能になり、数年後には解決できると考えます。

再生医療は高額の医療費がかかり、医療として定着するか危ぶむ声があります。しかし、一人当たり年間約500万円の医療費がかかる透析患者を減らすことができれば、当初1000万円かかったとしても十分医療費を削減でき、何よりも患者は極めて快適な生活が送れるようになると考えます。

概要

近年、インスリン分泌細胞の移植によるインスリン依存性糖尿病患者の治療が試みられています。しかし、医療として定着させるためには、未だ数々の困難を克服する必要がありますが、中でも以下の三つが解決すべき大きな問題です。

  1. 移植細胞を拒絶反応や自己免疫反応から保護するため免疫抑制剤の投与が必要である。免疫抑制剤の副作用が心配である。
  2. 移植部位が深部の重要臓器である肝臓や腎臓であるため、何か問題が起きたときに膵島を除去することが困難である。
  3. インスリン分泌細胞である膵島の提供者が少なく、治療を施せる患者数は年に4、5人

本研究では、糖尿病ACIラットの皮下に塩基性繊維芽細胞増殖因子を含むアガロースロッドを埋め込むことで、移植された細胞や組織片への免疫反応が起きない免疫特典部位を作成できました。また、この部位へ移植したF344ラット膵島(インスリン分泌組織)は免疫抑制剤を投与することなく生着し、100日を超える観察期間中血糖値が正常化しました。一方、膵島移植の臨床と同様に経門脈的に肝臓に膵島を移植したときは、血糖値は一時的に正常化するものの、移植後10日前後で高血糖に戻ってしまいました。

図:糖尿病ラットへ膵島を移植したときの血糖値の変動

(a):ACIラットの背部の両側に人工的に作成した免疫特典部位にF344ラットから分離した膵島各1,500個移植、(b):ACIラットの肝臓に膵島各3,000個を移植

詳しい研究内容について

細胞移植による糖尿病治療

書誌情報

[DOI] http://dx.doi.org/10.1111/ajt.12739

N. M. Luan and H. Iwata
"Long-Term Allogeneic Islet Graft Survival in Prevascularized Subcutaneous Sites Without Immunosuppressive Treatment"
American Journal of Transplantation Volume 14 Issue 7 pp. 1533-1542 July 2014

掲載情報

  • 朝日新聞(6月20日 33面)、産経新聞(6月20日 30面)、中日新聞(6月20日 3面)、日刊工業新聞(6月20日 27面)および読売新聞(7月28日 17面)に掲載されました。