2014年6月3日
高橋英彦 医学研究科准教授、カール ベッカー こころの未来研究センター教授、鄭志誠 医学研究科研究員らのグループは、機能的MRIを用いて、医療関係者の燃え尽き症候群の兆候を、共感に関する脳活動の強さで予測できることを明らかにしました。
本研究成果は、6月3日23時(日本時間)に米国科学誌「Translational Psychiatry」で掲載される予定です。
研究者からのコメント
今後この成果は、経験の浅い医療関係者の燃え尽き症候群の予測や予防に関わる教育に貢献し、医療関係者の精神衛生の向上に寄与できるものと期待されます。
また、燃え尽き症候群の脳科学的なメカニズムの解明を進め、医療や介護にたずさわる職員に対する燃え尽き症状改善プログラムの開発も目指します。例えば、燃えつき症候群に対処できるスキル獲得の教育の際に、この訓練方法や達成度の客観的な評価方法として脳活動を用いることが考えられます。
ポイント
- 燃え尽き症候群の兆候が強いほど、感情の認識や表現をすることが困難で、日常的に実際に感じる気持ちと表現した態度にギャップを感じる。
- 共感に関わる脳の活動が弱いほど、燃え尽き症候群の兆候が強く、さらに感情の認識・表現能力がより低い。
- 本研究の成果は、経験の浅い医療関係者における燃え尽き症候群の予防や対処スキルの教育、さらに症状改善を目標とする脳活動を用いた介入アプローチの開発に貢献
概要
ストレスに対処する能力が充分に獲得されていない経験の浅い医療関係者は、仕事をしているうちに感情的に疲れて燃え尽き、抑うつ的になりやすいことが知られています。また今後「超」少子高齢化社会を向かえる日本では、医療・介護従事者の人材確保は最重要懸案の一つとなっています。このため、燃え尽きの症状を予防することは非常に重要です。
これまでの研究では、医療関係者における燃え尽き症候群と共感性の関係では、共感性が高すぎると感情的に巻き込まれて、疲れてしまうという仮説と、逆に医療者は共感的でなければと優等生的に振る舞い疲れてしまうという反対の仮説がありました。
本研究では、機能的MRIにより現役の看護師達の共感に関わる脳活動を測定し、これらの仮説を検証しました。この結果、燃え尽き症状の兆候が強い人ほど、共感に関わる脳活動が弱く、自分の感情をしっかりと自覚して表現する能力が低下しており、営業スマイル的なことを強いられて疲れて燃え尽きになりやすいことが支持されました。
この成果は、脳活動を調べることで、従来の被験者自身が答える形の心理検査に加え、より正確に燃え尽き症候群の兆候を予測しうることを示しています。
図:脳活動強度と燃え尽きレベルの関係
詳しい研究内容について
医療関係者の燃え尽き症候群の兆候を相手の気持ちを感じる時の脳の活動レベルで予測 -感情的に燃えつきないためには、まずしっかり自分の感情を表現・自覚することが大切-
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1038/tp.2014.34
S Tei, C Becker, R Kawada, J Fujino, K F Jankowski, G Sugihara, T Murai and H Takahashi
"Can we predict burnout severity from empathy-related brain activity?"
Translational Psychiatry (2014) 4, e393 Published online 3 June 2014
掲載情報
- 京都新聞(6月28日 9面)および日刊工業新聞(6月5日 23面)に掲載されました。