2014年5月21日
高野義孝 農学研究科准教授、入枝泰樹 同特定研究員らの研究グループは、植物病原菌が分泌する病原性関連タンパク質(エフェクター)が送り込まれる植物—病原菌間の新規インターフェース領域の発見に成功しました。
本研究成果は、近日中に米国科学雑誌「The Plant Cell」のオンライン速報版で公開されます。
研究者からのコメント
カビは古くなったパンの上などさまざまなところで目にしますが、植物に感染できるカビはカビ全体の中のほんの一握りです。植物病原性カビ(植物病原菌)はなぜ植物に感染できるのか、この問いに答えるカギは、エフェクターにあります。
今回、エフェクターの動態を調べる過程で、予想もしていなかったインターフェースの存在が明らかになりました。インターフェースへのエフェクター分泌機構を阻害・攪乱する化合物が見い出せれば、新たな防除薬剤の開発に貢献できると期待されます。そのためにも、エフェクターのインターフェースへの集中的分泌の背景にある分子メカニズムについて、さらに研究を推進し、その理解を進めていくことが重要と考えています。
概要
植物病害の80%以上は、糸状菌(いわゆるカビ)によって引き起こされており、植物病原菌の攻撃から作物を保護することは、非常に重要です。植物病原菌は宿主植物に感染するためには、その植物が有する防御システムを回避する必要があります。では、植物病原菌はどのようにして宿主植物に対しそのような芸当をやってのけるのでしょうか? それは病原菌が宿主感染時にさまざまなタンパク質を分泌し、それらが宿主植物に作用し、本来発揮すべき防御反応を抑制しているためと広く考えられています。このような防御応答の抑制など病原性発現において役割を担う分泌タンパク質は一般に「エフェクター」と呼ばれています。
エフェクターの本質を理解する上での重要な問題は幾つかあり、そのうちの一つが、「病原菌はエフェクターをいつ、そして、どこに分泌するのか」という問題です。本研究グループは、この問題に取り組むために、キュウリなどのウリ科作物の病原菌であるウリ類炭疽病菌を研究対象として、複数の病原性関連エフェクターの分泌動態を調べました。動態を調べるために、蛍光タンパク質と融合したエフェクタータンパク質を発現する病原菌を新たに作出し、その蛍光シグナルをリアルタイムで観察しました。
その結果、本菌の侵入菌糸の基部周辺に、非常に明確なリング状の蛍光シグナルが検出されました。このようなシグナルの報告例はこれまでになく、リング状の蛍光シグナルが何を示しているのかについて、さらに研究を重ねた結果、ウリ類炭疽病菌が宿主植物に侵入菌糸を形成した際、その侵入菌糸の基部周辺に特徴的なインターフェース領域が形成され、そして病原菌はそのインターフェース領域に集中的にエフェクターを分泌していることが明らかになりました。
この結果により、まず、本菌は当該エフェクターを侵入菌糸形成の初期段階に分泌することが明らかとなりました。さらにその分泌は外界全体に向けて均一に起きるものではなく、特定の部位に形成されるインターフェースに向けて集中的に分泌されることが判明しました。病原菌は宿主植物の防御システムを制圧するために、エフェクターという「飛び道具」をやたらに使うのではなく、タイミングと場所を十分に見極め、繰り出していると推定されます。
詳しい研究内容について
書誌情報
[DOI] http://dx.doi.org/10.1105/tpc.113.120600
Hiroki Irieda, Hitomi Maeda, Kaoru Akiyama, Asuka Hagiwara, Hiromasa Saitoh, Aiko Uemura, Ryohei Terauchi and Yoshitaka Takano
"Colletotrichum orbiculare Secretes Virulence Effectors to a Biotrophic Interface at the Primary Hyphal Neck via Exocytosis Coupled with SEC22-Mediated Traffic"
The Plant Cell Published online before print May 2014
掲載情報
- 京都新聞(6月28日 9面)に掲載されました。