iPS細胞研究所は、再生医療実現拠点ネットワークプログラムの一環として、2013年度より再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト(注1)を本格的に進めてきましたが、2015年8月6日(木曜日)に、再生医療に使用可能なiPS細胞ストックの提供を開始しました。
今後は、再生医療への使用を希望する研究機関や企業に随時提供する予定です。
再生医療用iPS細胞ストックプロジェクトは、健康な人のHLAホモ接合体(注2)を有する細胞からiPS細胞を作製し、あらかじめさまざまな品質評価を行った上で、再生医療に使用可能と判断できるiPS細胞株を保存するプロジェクトです。iPS細胞株は、iPS細胞研究所内の細胞調製施設FiT(Facility for iPS Cell Therapy)で作製しています。
今回提供を開始したiPS細胞株は、日本人で最頻度のHLA型の細胞から作製しました。このiPS細胞から作製した分化細胞は、日本人の約17パーセントに免疫反応が少なく移植可能と考えられています。2014年から、複数のiPS細胞株について分化能力の評価やさまざまな項目の品質評価を行いました。このiPS細胞株は、臨床で使用可能な分化細胞の原料となります。
iPS細胞研究所では引き続き日本人で頻度の高いHLAホモ接合体を有するドナーの皆様より御協力をいただきながら、第一段階として2017年度末までに、日本人の3~5割程度をカバーできる再生医療用iPS細胞ストックの構築を目指し、iPS細胞の製造に取り組んでいきます。
用語説明
(注1)再生医療用iPS細胞ストックプロジェクト
HLAホモ接合体の細胞を持つ健康なボランティアの方の血液や皮膚などから、iPS細胞研究所内に設置されている細胞調製施設FiTにおいてiPS細胞を作製し、保存する計画のことです。保存、すなわちあらかじめストックすることにより、品質の良いiPS細胞を国内外の医療機関や研究機関に迅速に提供することができます。提供を受けた機関は、iPS細胞から目的の細胞に分化させて再生医療に利用します。
iPS細胞の品質評価のために、細胞の形態や、遺伝子変異、微生物等の検査を行っています。さらに、外部機関に分化能力の評価を実施してもらい、一定の基準をクリアしたものをストックしています。
(注2)HLAホモ接合体
HLAは、ヒトの主要組織適合遺伝子複合体であるヒト白血球型抗原(Human Leukocyte Antigen)の略で、細胞の自他を区別する型。HLAは、白血球だけでなく、ほぼ全ての細胞に分布していて、ヒトの免疫に関わる重要な分子として働いています。自身の持っている型と異なるHLA型の人から細胞や臓器の移植を受けると、体が「異物」と認識し、免疫拒絶反応が起こります。そのため、細胞や臓器を移植する際にはHLA型をできるだけ合わせることで、免疫拒絶反応を弱めることが重要です。
HLAの型は非常に多様で、A座、B座、C座、DR座、DQ座、DP座などと呼ばれる抗原(タンパク質)の組み合わせで構成されており、各抗原に数十種類の型があるため、あわせて数万通りの組み合わせがあると言われています。そのため、自分と完全に一致するHLA型の人を見つけるのは、数百~数万人に1人の確率といわれます。
父親と母親から同じHLA型を受け継いだ場合、「HLAホモ接合体」と言います。例えばA座について、A1、A2,A3…と数十種類の型がありますが、両親それぞれから二つの同じ型を受け継いだA1A1、A2A2、A3A3のような場合を「HLAホモ接合体」と言い、細胞移植においては、A1A1であればA1A2の人やA1A3の人に移植しても拒絶反応が起こりにくいと考えられます。