山中伸弥 iPS細胞研究センター長がラスカー賞を受賞 (2009年9月14日)
山中教授の主な業績
- ノックインマウスの線維芽細胞を用いた多能性誘導アッセイ系により、候補因子の中から4つの遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)の導入で、ES細胞と形態、機能が近似した人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell)が樹立できることを見出した。(2006年8月に発表)
- レトロウイルスによる遺伝子導入効率を向上させる工夫の上、マウスと同じ遺伝子セットを用いて、ヒト皮膚の初代培養線維芽細胞からヒトiPS細胞の樹立にも成功した。そして、ヒトiPS細胞は報告されているヒトES細胞に類似した形態、機能を示した。(2007年11月に発表)
- レトロウイルスでゲノムに導入されたc-Myc遺伝子の再活性化によりキメラマウスに腫瘍が発生することが分かり、臨床への応用における課題とされた。しかし、iPS細胞樹立法を改良することでc-Mycを用いず3因子だけでマウスおよびヒトの線維芽細胞からMyc- (マイナス)iPS細胞を樹立することに成功し、安全面での課題を回避出来る可能性を示した。このことで、今後の細胞移植治療への応用、病因の究明や薬剤の毒性評価等を可能とした。(2007年12月に発表)
- マウス体細胞でウイルスベクターを用いずにiPS細胞を樹立することに成功した。従来、iPS細胞は1)の4因子をそれぞれレトロウイルスベクターで体細胞に導入して作製してきた。しかし、この方法ではゲノムへのc-Mycレトロウイルスベクター挿入に起因する腫瘍形成の課題があり、Myc-iPS細胞においても危惧は完全に払拭されたわけではなかった。今回は、レトロウイルスの代わりにプラスミドベクターを使ってiPS細胞の樹立に成功した。調べた範囲では、プラスミドベクターはゲノムには挿入されていなかった。この成果はiPS細胞を臨床応用する上で必須となる、安全性確保の点で大きな前進をもたらした。(2008年10月発表)
- 慶應義塾大学との共同研究において、マウスiPS 細胞を樹立する際に用いる体細胞の種類によって、移植したマウスの腫瘍発生に差がみられることを確認した。マウスの胎仔線維芽細胞、成体の尾部由来線維芽細胞、肝細胞、胃上皮細胞や成体の胃の細胞から、36 種類のiPS 細胞株を作製し、それらを神経前駆細胞に分化誘導させマウスの脳に移植した。腫瘍発生の確率は、胎仔線維芽細胞や胃の細胞由来のものでは低率で、肝臓の細胞では中率、尾部由来線維芽細胞では高率でした。この研究成果は、iPS細胞樹立に用いる体細胞の種類が重要であることを示している。(2009年7月発表)
- がん抑制遺伝子p53の発現抑止により、4因子のレトロウイルス導入でマウスiPS細胞の樹立効率が20%に、c-Mycを除く3因子の場合でも10%に改善することを確認した。またp53の発現抑制でレトロウイルスを用いたヒトiPS細胞、プラスミドを用いたマウスiPS細胞の樹立効率がともに改善した。さらに、p53遺伝子を欠損させた場合は、終末分化したTリンパ球(T細胞)からもマウスiPS細胞の樹立に成功した。網羅的遺伝子発現解析により、マウスとヒトで共通のp53関連遺伝子を同定し、それらの機能解析を行うことにより、p53-p21経路が細胞のがん化抑制のみならず、iPS細胞樹立においても抑制弁として機能していることを見出した。(2009年8月発表)
- 4因子をレトロウイルスベクターを用いてマウスおよびヒトの線維芽細胞に導入し、5%の低酸素濃度で培養するとiPS細胞の樹立効率が改善することを見出した。マウス線維芽細胞にc-Mycを除く3因子でも同様の結果が得られた。また、プラスミド、ピギーバック・トランスポゾンをベクターとして用いた場合でも、マウスiPS細胞の樹立効率が上昇したことを確認した。 この研究成果は、低酸素濃度の培養環境が細胞のリプログラミングを促進することを示唆している。(2009年8月発表)