望月 新一 教授
望月 新一教授は、昭和63年に米国プリンストン大学数学科を卒業後、平成4年に同大学大学院数学科博士課程を修了して学位(Ph.D)を取得し、同年京都大学数理解析研究所助手に就任された。その後、平成8年に同研究所助教授に昇任、平成14年に同研究所教授に昇任されて現在に至っています。
同教授の専門は数論幾何であり、特に、p進タイヒミュラー理論、遠アーベル幾何、ホッジ・アラケロフ理論など、双曲的代数曲線の数論幾何に関する多岐にわたる顕著な研究成果を挙げてこられたことが、今回の受賞の対象となりました。
同教授が構築したp進タイヒミュラー理論は、古典的な複素数体上のタイヒミュラー理論の類似として、双曲的代数曲線とそのモジュライ空間の望ましいp進一意化理論を初めて与えたものです。曲線のモジュライ空間の標準座標、曲線の標準持ち上げ、曲線の数論的基本群のPGL2への標準表現、など斬新かつ基本的な対象たちが同教授により続々と発見されました。これらの結果は、約200ページの大論文(Publications of RIMS、1996年)と500ページ超の大著(アメリカ数学会、1999年)にまとめられました。
双曲的代数曲線の遠アーベル幾何におけるグロタンディーク予想は、中村博昭、玉川安騎男らによって部分的に解決されていましたが、同教授はこれを完全に解決し、更に、p進体上でも同様の結果が成り立つことを示しました。この結果は、現在に至るまで遠アーベル幾何の最高峰をなしており、同教授は、この業績に関し、1997年度日本数学会賞秋季賞を(中村、玉川と共同で)受賞し、また、1998年には29歳の若さで国際数学者会議の招待講演を行いました。
その後、同教授は、abc予想などディオファントス幾何の重要未解決問題へのアプローチの一環として、楕円曲線のホッジ・アラケロフ理論という大理論を完成させました。現在は、更にこの研究を大きく発展させて、全く新しい圏論的な幾何学を構築中であり、この理論が完成した暁にはディオファントス幾何への著しい応用があることが期待されるため、内外の熱い注目を集めているところです。なお、同教授は、日本学術振興会賞もあわせて受賞されました。