このたび、中島啓 数理解析研究所教授および田中紘一 名誉教授が第104回(平成26年)日本学士院賞を受賞することになりました。日本学士院賞は、学術上特に優れた研究業績に対して贈られるもので、日本の学術賞としては最も権威ある賞です。
授賞式は平成26年7月に東京で行われる予定です。
中島啓 数理解析研究所教授
中島啓 教授は、昭和62年東京大学大学院理学研究科修士課程修了、同年同大学理学部助手として採用、平成3年に理学博士(東京大学)を取得、その後、平成4年東北大学理学部助教授、平成7年東京大学大学院数理科学研究科助教授、平成9年京都大学大学院理学研究科助教授、平成12年同大学大学院理学研究科教授を経て、平成20年に同大学数理解析研究所教授に就任し現在に至っています。また、同大学数理解析研究所の量子幾何学研究センター長を併任しています。
今回の日本学士院賞の受賞題目は「幾何学的表現論と数理物理学」です。中島教授はこの両分野において世界的リーダーとして高く評価されています。
数学や物理における最も重要な主題の一つは「対称性」であり、幾何学的な手法を用いて対称性を研究するのが幾何学的表現論です。中島教授は箙(えびら)多様体という図形を用いる手法を創出し、従来の手法では捉えられなかった対称性の研究に成功し、幾何学的表現論に変革を引き起こしました。この研究で導入された、箙多様体の無限列に潜む対称性を抉り出すという中島教授のアイデアは、思想的にも極めて独創的です。また、中島教授によって発見された箙多様体は、現在では様々な分野で重要な役割を果たしています。対称性と箙多様体の関係は、物理学における双対性の探求にも大きな影響を与えました。
さらに、中島教授は吉岡康太 神戸大学教授との共同研究でネクラソフ予想を解決し、4次元ユークリッド空間の超対称性ゲージ理論の「プレポテンシャル」を、数学的な意味で厳密に基礎づけました。これは、物理学者達による超対称性ゲージ理論の幾何学への応用を、数学的に正当化する道を切り開くものでもあり、数理物理学・幾何学に大きな進展をもたらしました。これを基にして中島教授は吉岡教授、Lothar Göttsche 国際理論物理学センター教授との共同研究で、射影曲面に関するドナルドソン不変量の壁越え公式やウィッテン予想などの歴史的難問を次々と解決しました。
中島教授の卓越した数学的業績に対し、これまでにも平成9年日本数学会幾何学賞、平成12年日本数学会賞春季賞、平成15年アメリカ数学会コール賞、平成18年日本学術振興会賞など、多数の賞が授与されています。
田中紘一 名誉教授
田中紘一 名誉教授は、昭和41年京都大学医学部を卒業、昭和41年同大学医学部附属病院において実地修練の後、外科学教室に入局、昭和53年に同大学医学部附属病院助手、昭和60年同大学医学部講師、平成6年同大学医学部助教授を経て、平成7年同大学大学院医学研究科教授に就任、移植免疫医学分野を担当、平成13年からは4年間にわたり同大学医学部附属病院長を併任されました。
なお、平成17年3月に京都大学定年退職の後、先端医療振興財団副理事長 先端医療センター長、神戸市立医療センター中央市民病院副院長、神戸市立医療センター中央市民病院技術顧問、神戸国際医療交流財団理事長、先端医療振興財団技術顧問などを歴任され、神戸国際フロンティアメディカルセンター理事長をつとめられています。
今回の受賞研究題目は、「生体肝移植の基礎研究および臨床開発と展開に関する研究」です。田中名誉教授は、脳死移植が困難なわが国で、肝臓の臓器特異性に着目して基礎研究を行い、生体肝移植がヒトに応用できる可能性を示しました。その上で、生体肝移植を肝疾患末期患者の根本的治療として展開してきました。手術手技の開発と周術期管理の工夫により、新生児から成人への適応を可能とし、移植肝の生着に影響する諸因子およびドナー安全性に関する諸因子を分析して課題を克服し、良好な成績を示しました。この間、新しい免疫抑制剤の臨床応用、移植後の免疫寛容の発現、B型肝炎ウィルス既感染ドナーからの移植後に肝炎が発生することとそのメカニズムの解明、ABO不適合移植の病態解明とその対策、家族性アミロイドニューロパティ患者の肝臓を用いるドミノ肝移植、肝癌に対する移植適応の拡大等の臨床研究を通して移植免疫学と肝臓病学に新たなる道を拓きました。田中名誉教授は、わが国のみならず、9か国で生体肝移植の導入に協力し、本法の普及と定着に努められています。
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受賞理由等詳細は、日本学士院のホームページを参照してください。