2009年2月26日
英国科学誌「ネイチャー」誌への研究成果
「空間電荷効果によって引き起こされるシリコンの巨大な正の磁気抵抗効果」
前列左から小林 准教授、マイケル・デルモ氏
後列左から葛西 助教、小野 教授、山本 助教(iCems)
小林 研介 准教授、小野 輝男 教授、葛西 伸哉 助教、大学院生マイケル・デルモ氏(以上、京都大学化学研究所)と、山本 真平 助教(京都大学物質-細胞統合システム拠点)からなる研究グループは、空間電荷効果によってシリコン(ケイ素)に巨大な正の磁気抵抗効果を発現させることに成功しました。半導体産業の主役であるシリコンにおいて顕著な磁気抵抗効果が発見されたことは、応用上の観点からも特筆すべきことです。
この成果は2009年2月26日発行の英国科学誌「ネイチャー」誌に掲載されることになりました。
研究成果の概要
磁気抵抗効果とは物質の電気抵抗が磁場中で変化する現象のことです。その研究は100年以上もの長い歴史を持つだけでなく、ハードディスクの読み取り装置や磁気センサーなど、現代の高度情報化社会を支える基幹技術に直結しているため、工学的にも極めて重要です。例えば、金属人工格子における巨大磁気抵抗効果の発見(1988年)はハードディスクの革新的な向上に貢献し、2007年のノーベル物理学賞に輝いています。しかしながら、シリコンに代表されるような通常の半導体において磁気抵抗効果がほとんど起きないことは、古くからの常識でした。
研究チームは、シリコンに強い電場を印加した時に生じる空間電荷効果に注目しました。空間電荷効果とは、半導体のような自由に動ける電子が少ない物質に大量の電子が注入された場合、内部に一様でない電場が生じ、電子が互いにクーロン斥力を及ぼしあって伝導するようになる現象のことを指します。研究チームは、このような状況下においては、シリコンの電気抵抗が磁場によって大きく増大することを発見しました。例えば、磁場3テスラにおけるシリコンの抵抗は、磁場が無い状態に比べて、25ケルビンにおいて約100倍、室温においても約10倍以上になります(図)。さらに、この現象は、空間電荷効果によって素子中の電子濃度と電場が不均一になることにより、磁場によるローレンツ力が電子の軌道に大きな影響を与えるためであることも明らかになりました。このことはまた、今回発見された「空間電荷効果によって誘起される巨大磁気抵抗効果」が、高純度の半導体において普遍的に生じる可能性を意味しています。
シリコンは、現代の半導体産業の中核を担う物質であり、過去50年以上にもわたって最もよく研究されてきた物質の一つですが、このような巨大な磁気抵抗効果は本研究によって初めて明らかとなったものです。特に、室温においてもこの効果が顕著に生じることは、半導体の主役であるシリコンに注目すべき新機能が付与されたものと言え、実用面においても大きなインパクトが期待されます。
本研究は、科研費、「化研らしい融合的・開拓的研究」、京都大学グローバルCOEプログラム「物質科学の新基盤構築と次世代育成国際拠点」、旭硝子財団、住友財団の助成を受けて行われました。
- 朝日新聞(2月26日 夕刊 9面)、京都新聞(2月26日 29面)、産経新聞(3月4日 21面)、日刊工業新聞(2月26日 27面)および読売新聞(3月23日 27面)に掲載されました。