2008年10月6日
高折晃史 医学研究科 講師らの研究グループの研究成果が、米国科学誌「Nature Structural & Molecular Biology」に掲載されることになりました。
(左から高折晃史 医学研究科 講師、白川康太郎 エイズ予防財団リサーチレジデント)
研究成果の概要
図1 APOBEC3G/VifによるHIV-1の複製調節
近年、HIV-1複製を抑制する重要な宿主蛋白が次々と同定され、ウイルス複製はこれら宿主蛋白とウイルス蛋白の相互作用により巧妙に制御されていることが明らかになりつつある。APOBEC3Gは、それら宿主蛋白のさきがけとなって発見された分子であり、現在HIV-1研究のなかで最も注目されている分子のひとつである。
APOBEC3GはDNAに変異を導入するシチジン脱アミノ酵素であり、その抗HIV-1活性のメカニズムは、逆転写の際に、ウイルス1本鎖DNAにdCからdUへの変異を導入することによりHIV-1の複製を阻害する。一方、HIV-1はVifというウイルス蛋白を有しており、このVif蛋白はAPOBEC3Gと結合し、ユビキチン-プロテアソーム系を介してこれを分解することでその抗ウイルス活性を中和し、ウイルス複製を助けている(図1)。つまり、HIV-1複製は、これら分子間の相互作用によって制御されている。
我々の今回の研究成果は、このAPOBEC3Gの抗HIV-1活性が、リン酸化によってさらに制御されていることを明らかにした。具体的には、APOBEC3Gは、Aキナーゼによりリン酸化を受けると、Vif蛋白との結合が阻害され、Vifによる分解に抵抗性になり、より強い抗HIV-1活性を示すことができるようになることを明らかにした。
現在、Vif/APOBEC3Gの相互作用を標的とした新規抗HIV-1薬の開発に関して、全世界でしのぎが削られているが、我々の今回の研究成果は、APOBEC3Gの抗HIV-1活性を調節する方法論の可能性を提示しており、創薬のための標的対象をさらに広げた点でも意義深いと考えられる。
- 京都新聞(10月6日 24面)、産経新聞(10月6日 2面)、日刊工業新聞(10月7日 20面)、日本経済新聞(10月6日 34面)および毎日新聞(10月6日 2面)に掲載されました。