鉄原子を集めてナノサイズにした分子の合成に成功―クラスター化学の未踏領域探索に向けた第一歩―

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 大木靖弘 化学研究所教授、田中奏多 同博士課程学生、伊豆仁 同助教、檜垣達也 同助教(現:東京大学助教)らは、寺西利治 同教授、髙畑遼 同助教、加藤立久 福井謙一記念研究センター研究員、唯美津木 名古屋大学教授、大石峻也 同大学院生、川本晃希 同大学院生、W. M. C. Sameera スウェーデン・ヨーテボリ大学(Göteborgs universitet)研究員、山添誠司 東京都立大学教授、吉川聡一 同助教、二瓶雅之 筑波大学教授、志賀拓也 同准教授、Roger E. Cramer 米国ハワイ大学(University of Hawaii)教授、Karsten Meyer ドイツ・フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルク校(Friedrich-Alexander Universität Erlangen-Nürnberg)教授、Zihan Zhang 同大学院生と共同で、55個の鉄原子をナノメートルサイズ(1.2ナノメートル径)の正二十面体型に配列し、表面を多数の水素原子(ヒドリド)が架橋した分子を、世界で初めて合成しました。

 ナノサイズの鉄クラスター錯体は、多くの合成化学者が挑戦を続けつつも未達であった「夢の化合物」であり、その詳細な性質は長年謎に包まれてきました。本研究の結果は、ナノメートル領域における鉄の反応性や性質を明らかにし、既存の物質化学・材料化学を凌駕するための第一歩に位置づけられます。例えば、複数の水素原子(ヒドリド)で架橋された鉄原子を用いる反応は、窒素分子を還元する自然界の酵素反応と工業的なハーバー・ボッシュ法に共通する特徴であり、これらの共通項を分子として具現化した鉄クラスター錯体は、従来は困難であった物質変換を可能にする、次世代の触媒になる可能性があります。

 本研究成果は、2025年1月20日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

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本研究では、55個の鉄原子を正二十面体構造へと組み上げ、表面を水素原子で保護した鉄ヒドリドクラスター錯体を合成した。この分子は、世界初となるナノメートルサイズの鉄クラスター錯体である。
研究者のコメント
「本研究の[Fe55]クラスター錯体の構造を初めて目にした瞬間から、この化合物のファンです。この化合物、美しいと思いませんか?ノーベル化学賞を受賞された野依良治先生の信条から言葉を拝借すれば、『美しいものは役に立つ、機能するはず、逆に機能するものは美しい』ものです。美しい化学からは社会貢献の突破口が生まれると期待して、より広く研究を展開させます。」(大木靖弘)
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