無意識的な反射を予測して、身体の動きを制御している―運動制御の新たな神経メカニズムを解明―

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 私たちが手でカップを取るように身体を動かすとき、脳からの指令だけでなく、筋肉や皮膚からの信号が脊髄を通じて生じる「反射」が、身体の動きを支えています。この反射は「脊髄反射」と呼ばれ無意識のうちに筋肉を動かす仕組みです。しかし、この無意識的な反射が働く一方で、どのようにして身体の動きを意識的にコントロールしているのか、その仕組みはこれまで明らかにされていませんでした。

 梅田達也 医学研究科准教授(前:生理学研究所研究員、国立精神・神経医療研究センター室長)と西村幸男 東京都医学総合研究所プロジェクトリーダー(前:生理学研究所准教授)の研究グループは、脳の運動を司る「一次運動野」が筋肉を直接動かすだけでなく、脊髄反射を活用して筋肉の動きを制御していることを見つけました。今回の研究で、脳が脊髄反射のタイミングや影響を事前に計算して、身体の動きを効率的、かつ正確にコントロールしていることが明らかになりました。今回の成果は、ヒトの運動制御のメカニズムに関する基本的な理解を深めるとともに、リハビリなどの医療分野やヒト型ロボット開発などに新しい道を切り開く重要な一歩です。

 本研究成果は、2024 年12月18日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント
「脳の運動野が筋肉を制御する仕組みや、脊髄反射がどのように働くかについては、これまで数十年にわたって研究され、多くの知見が積みあがってきました。しかし、これらの2つがどのように連携しているのかは長い間謎のままだったため、脳がどのように身体を動かしているのかについての理解は不完全でした。その1つの理由は、身体を動かしている動物の感覚受容器の情報を直接記録する技術がなかったことにあります。今回の研究は、この技術を開発することから始まりました。この一連の研究は、研究がスタートしてから、15年という時間をかけて完結することができました。感覚受容器が脊髄に送る信号と、運動野が筋肉を制御する信号が、同じように筋肉の動きに影響を与えていることがわかったときの興奮は、今でも鮮明に記憶に残っています。この研究では、脊髄反射による無意識的な信号処理と、大脳皮質が司る意識的な運動制御を同時に調べました。これにより、人間がどのように身体を正確に動かしているのか、その仕組みの本質に迫ることができると考えています。」(梅田達也)
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adq4194

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/290969

【書誌情報】
Tatsuya Umeda, Osamu Yokoyama, Michiaki Suzuki, Miki Kaneshige, Tadashi Isa, Yukio Nishimura (2024). Future spinal reflex is embedded in primary motor cortex output. Science Advances, 10, 51, eadq4194.