増殖因子は、細胞の増殖や分化を促進するタンパク質の総称であり、細胞表面の受容体に結合することで多様な生体機能を制御します。しかし、我々の体には似た性質を持つ複数の増殖因子が存在するものの、それぞれの機能や複数の増殖因子が必要な理由については十分に解明されていませんでした。
松田道行 医学研究科客員教授、出口英梨子 同博士課程学生、寺井健太 同准教授(現:徳島大学教授)らの研究グループは、蛍光顕微鏡技術を用いて上皮成長因子受容体(EGFR)リガンドファミリーを解析しました。その結果、受容体への結合能の低いリガンドがより速く遠くの細胞を活性化できることを発見しました。この発見により、低親和性リガンドが皮膚創傷部位の細胞遊走を誘導し、シグナルを遠方に伝達することで傷の修復を促進していることが明らかになりました。
本研究により、一見似た性質を持つ増殖因子の個別の特性と、生体内における新たな機能を明らかにしました。本研究で得られた知見は、細胞間コミュニケーションの理解や皮膚疾患の治療法開発などの幅広い分野への応用が期待されます。
本研究成果は、2024年11月14日に、国際学術誌「Cell Reports」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2024.114986
【書誌情報】
Eriko Deguchi, Shuhao Lin, Daiki Hirayama, Kimiya Matsuda, Akira Tanave, Kenta Sumiyama, Shinya Tsukiji, Tetsuhisa Otani, Mikio Furuse, Alexander Sorkin, Michiyuki Matsuda, Kenta Terai (2024). Low-affinity ligands of the epidermal growth factor receptor are long-range signal transmitters in collective cell migration of epithelial cells. Cell Reports, 43, 11, 114986.