近年、近視の増加が世界的な問題となっています。近視だけが原因で失明することはほとんどありませんが、近視が進み強度近視になると網膜剥離や緑内障、近視性黄斑症、近視性黄斑部新生血管など失明につながる病気を引き起こしやすいことが知られています。その中でも近視性黄斑部新生血管はものを見るための中心部分(黄斑部)に本来はない、新生血管という悪い血管が生えて出血や浮腫を引き起こす疾患です。今まで近視や強度近視の発症背景については世界中で様々な研究が行われてきましたが、強度近視から近視性黄斑部新生血管が発症する機序についてはあまり研究されておらず、その分子生物学的な機序や病態はほとんど解明されていません。
三宅正裕 医学研究科特定講師、辻川明孝 同教授、森野数哉 同博士課程学生および長﨑正朗 九州大学教授を中心とした研究グループは、強度近視患者における近視性黄斑部新生血管の遺伝的背景を解明するため、医学部附属病院および長浜市のコホート事業に基づき、合計2,783名のゲノム解析を実施しました。その結果、TEX29〜LINC02337領域に存在するrs56257842変異が近視性黄斑部新生血管と強く関連していることを特定しました。また、この変異が転写因子EGR1、ZBTB33、ZNF740の結合に影響を与えることを明らかにしました。
さらに、加齢黄斑変性に関連する遺伝子CETPも近視性黄斑部新生血管と共通するリスク因子であることを確認し、両疾患が共通の遺伝的基盤を持つことが示されました。この発見は、近視性黄斑部新生血管の発症メカニズムの解明と治療法開発に新たな展望をもたらすものであり、今後の研究の進展が期待されます。
本研究成果は、2024年11月1日に、国際学術誌「Ophthalmology Retina」にオンライン掲載されました。
京都大学医学部附属病院には、強度近視専門外来を設けておりますので、受診を希望される場合は主治医の先生とご相談下さい。」