植物多様性の新たな維持メカニズムの発見―寄生植物ネナシカズラによる寄主植物の共存―

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 篠原直登 生態学研究センター特定研究員と山尾僚 同教授、野宮陸 弘前大学修士課程学生(研究当時)は、河川敷に広がる草地で優占する2種の草本植物の共存に、寄生植物が重要な役割を果たしている可能性を示しました。

 自然界には多くの植物種が一緒に生育しており、「共存」しているように見えます。しかし、光や土壌栄養塩といった同じような資源を利用する植物種の共存が、実際にどのようなメカニズムによって可能になっているかは十分に明らかにされていません。本研究では、草地でよく見られる寄生植物の一種アメリカネナシカズラに注目し、2種の寄主植物種の競争関係に与える影響を検証しました。野外調査と寄生実験から得られたデータを解析し、寄生植物と寄主植物種間の個体群動態を再現する数理モデルを構築しました。その結果、ヤハズソウはアキノエノコログサよりも競争的に優位な一方で、アメリカネナシカズラから寄生されやすく死亡しやすいことが分かりました。この作用によりアメリカネナシカズラが多く存在する場所では、ヤハズソウの生育が抑制され、アキノエノコログサが生育しやすいことが分かりました。実データから再現した数理モデルから、アキノエノコログサ、ヤハズソウ、ネナシカズラの3者が動的に個体数を変動させながら共存することが示されました。

 本成果は植物の共存メカニズムの新たな証拠として、自然界での植物多様性の維持に関して重要な知見となります。

 本研究成果は、2024年10月24日に、国際学術誌「Ecology Letters」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
(a)アキノエノコログサ、ヤハズソウの競争関係と、その寄生植物アメリカネナシカズラの影響。競争的に優位なヤハズソウがより寄生されやすい。(b)その「競争と防御のトレードオフ」のため、ヤハズ、エノコロ、ネナシの個体数が動的に変化しながら共存が生じる。
研究者のコメント
「本研究は、河川という身近な草地での観察による気付きをきっかけに始まりました。自然を見ていて着想したアイデアを検証する上で、実際のデータを数理モデルと組み合わせる、いわば実証と理論のハイブリッド的なアプローチの力強さを感じました。今後は、いわゆるナチュラリスト的な気付きを大切に、実証と理論の融合を通して、未だ解決されていない自然界の多くの謎を明らかにしていきたいと考えています。」(篠原直登)

「アメリカネナシカズラは、一度寄生すれば爆発的な速度で茎(蔓)を成長させます。その茎で次から次へと寄主に巻き付き寄生していく様子はまさに捕食者かのごとくですが、うまく寄主を得られないとすぐに弱ってしまう、そんなとてもわかりやすい植物です。そんな愛らしい寄生植物が多種の共存に大きな影響を与えていることは驚きでした。本研究で共存のメカニズムについての証拠を1つ示すことが出来たことをとても嬉しく思います。」(野宮陸)

「アキノエノコログサもヤハズソウもネナシカズラも日本に広く生育するありふれた植物ですが、その関わり合いを丁寧に調べていくと、興味深い現象に繋がっていました。今後も多面的なアプローチを用いて多様な生物たちの関わり合いを紐解いていきたいと思います。」(山尾僚)

研究者情報
研究者名
篠原 直登
研究者名
山尾 僚
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1111/ELE.14554

【書誌情報】
Naoto Shinohara, Riku Nomiya, Akira Yamawo (2024). A Parasite Plant Promotes the Coexistence of Two Annual Plants. Ecology Letters, 27, 10, e14554.