成田哲也 生態学研究センター助手(研究当時)、上田孝明 同技官(研究当時、故人)、池谷透 同研究員(現:立命館大学授業担当講師)、中野伸一 同教授は、1966年から2000年にかけて、琵琶湖の北湖・近江舞子沖定点の湖底の底泥に住む水生ミミズなどの底生動物(ベントス)の個体密度と種組成の変遷がなぜ起こったのか、現地の諸環境要因の変化との関係について解析しました。1960年代から1990年代にかけては琵琶湖が富栄養化していた期間であり、1990年代以降は気候変動・地球温暖化が琵琶湖生態系に影響した期間です。このため、本論文は単に長期モニタリングデータを報じただけのものではなく、琵琶湖に起こった2つの重要な環境変化についてベントスを通じて解析したユニークかつ重要なものです。また、気候変動・地球温暖化については、20世紀には社会的関心がそれほど高くありませんでしたが、21世紀にはいると国際的に社会的関心が高まり、現在では地球環境問題の筆頭に挙げられています。本研究では、20世紀に得られた研究データを21世紀の視点から解析したものとしても重要です。
琵琶湖北湖が富栄養化していた時期は、水生ミミズのエラミミズ(Branchiura sowerbyi)が優占していました。その後、1980年代後半からはユリミミズ (Limnodrilus属の2種)とイトミミズ (Tubifex tubifex)が優占しました。このように、本論文では富栄養化の期間から気候変動の期間へと移るにしたがってベントスの優占種も入れ替わることが明らかになりました。また、この優占種の変遷は、環境要因だけでなく、むしろイサザなどの魚類による捕食がより重要との解析結果も示しました。
本研究成果は、2024年8月5日に、国際学術誌「Inland Waters」(概要版)にオンライン掲載されました。
「この研究成果は、京都大学が理学部附属旧大津臨湖実験所から生態学研究センターまでの100年以上にわたって船舶を維持管理し、船長や技官・技術職員、教員などのマンパワーも配置し、琵琶湖の長期モニタリングを継続する体制を維持してきたからこそ成し得た成果です。つまり、本研究は、担当した研究者のたゆまぬ努力に加え、それを支える組織の長期にわたる継続的なサポートによる成果としても大変重要です。」
【DOI】
https://doi.org/10.1080/20442041.2024.2388338
【書誌情報】
Tetsuya Narita, Taka’aki Late Ueda, Tohru Ikeya, Shin-ichi Nakano (2024). Long-term changes in the density and composition of profundal macrobenthos in Lake Biwa from 1966 to 2000. Inland Waters.