微小管の引張が促進するダイニン物質輸送 新たな細胞制御メカニズムの解明

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 ナスリン サエダ・ルバイヤ 理学研究科日本学術振興会特別研究員、角五彰 同教授らの研究グループは、山下雄史 星薬科大学准教授(兼:東京大学特任准教授)、池口満徳 横浜市立大学教授、鳥澤嵩征 情報通信研究機構(NICT)研究員(現:国立遺伝学研究所助教)、大岩和弘 同主管研究員と共同で、微小管に引張応力を与えた際のモータータンパク質による物質輸送速度の変化について研究を行いました。本研究では、独自開発した伸展機構を介し、微小管に定量的な引張応力を加え、ダイニンモーターによる物質輸送を観察しました。高度な蛍光顕微鏡イメージング技術と定量的に引張応力を与える技術を使用し、シリコーンゴム基板上で引張応力を微小管に加えました。一定以下の引張応力下ではダイニンの物質輸送速度の向上を示しますが、一定以上の引張応力では輸送速度が減少することが示されました。このことは、微小管の変形やダイニンと微小管の相互作用の変化が輸送速度の変化を引き起こすことを示唆しています。これらの発見は、細胞内の力と分子モーターの相互作用に関する新たな知見をもたらし、細胞内物質輸送を維持する上での微小管の力学特性の重要性を浮き彫りにしています。

 本研究成果は、2024年6月25日に、国際学術誌「Nano Letters」にオンライン掲載されました。

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微小管に引張応力を与えた際のダイニンの物質輸送速度の変化
研究者のコメント

「一般に、道路に損傷があった場合には交通が妨げられます。しかし、細胞内輸送では興味深いことに、細胞内の道路である微小管が引張応力を受けると、モータータンパク質であるダイニンはより高速で物質輸送をすることを発見しました。私たちの研究は、細胞内輸送ダイナミクスにおける応力の重要な役割を明らかにしています。また、私たちの発見は、細胞内輸送の基本的メカニズムに関する新たな知見を提供します。この知見がさまざまな細胞プロセスや疾患の理解に繋がる可能性を秘めています。」(ナスリン サエダ・ルバイヤ)

研究者情報
研究者名
ナスリン サエダ ルバイヤ
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1021/acs.nanolett.4c00209

【書誌情報】
Syeda Rubaiya Nasrin, Takefumi Yamashita, Mitsunori Ikeguchi, Takayuki Torisawa, Kazuhiro Oiwa, Kazuki Sada, Akira Kakugo (2024). Tensile Stress on Microtubules Facilitates Dynein-Driven Cargo Transport. Nano Letters, 24, 30, 9129–9136.