水中の有毒金属イオンを選択的・大量に捉える高分子材料を新開発―日独連携での水環境浄化システムの開発―

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 田中求 医学研究科客員教授(兼:ドイツ・ハイデルベルク大学(Heidelberg University)教授)、中畑雅樹 大阪大学助教らの国際共同研究グループは、飛躍的に高い有毒イオン選択・捕捉機能を兼ね備えた水環境浄化システムを開発しました。これは、植物内で有毒重金属イオンを選択的に捕捉することで植物や水環境を守るタンパク質に着想を得て、新しい高分子材料を設計し、これを超高集積化することによって実現しました。

 SDGs Goal 6に「安全な水とトイレを世界中に」とあるように、清潔な水や公衆衛生は急速な人口増加と都市化が進む世界において解決すべき重要な課題です。現在広く用いられているのは、材料内の小さな孔にイオンを吸着させたり、水中のイオンと材料内に含まれるイオンを交換したりすることで水をきれいにするタイプの水浄化材料です。しかしこの水浄化材料では、標的となる有害な重金属イオンを水中の無害なイオンから選り分ける機能と、少ない材料で多くのイオンを捕まえる機能とを両立させることが困難でした。

 今回、中畑助教らは、有毒な金属イオンを選択的に捕捉して植物を守るファイトケラチンと呼ばれるタンパク質に着目し、この構造にヒントを得た人工高分子材料を合成しました。さらに、田中教授らは自己組織化技術を駆使してこの高分子およそ10の17乗(10億のさらに1億倍)分子にあたる材料を3ミリリットルの容積に超高集積化することに成功しました。これにより、これまでの材料では実現できなかった有毒イオンを選択的かつ大量に捕捉するという機能を実現することができました。試験的に開発した水浄化システムは、3ミリリットルに集積した材料がその100倍の容積(300ミリリットル)の産業排水レベルのカドミウムイオンを、1時間でWHOが定める飲料水レベルまで除去するという、非常に高い水浄化機能を示しました。

 本研究成果は、2024年7月11日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンラインに掲載されました。

文章を入れてください
植物タンパク質に着想を得た合成高分子を基盤とした水浄化システム
研究者のコメント

「本研究は日本とドイツの研究グループが分野の枠を超えて行った共同研究の成果です。コロナ禍など困難な時期もありましたが、オンラインツールなどを駆使して新たな材料、画期的な水処理システムを提案するまでに研究を高めることができたことを著者一同誇りに感じています。」(中畑雅樹、田中求)

研究者情報
研究者名
田中 求
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-024-49869-8

【書誌情報】
Masaki Nakahata, Ai Sumiya, Yuka Ikemoto, Takashi Nakamura, Anastasia Dudin, Julius Schwieger, Akihisa Yamamoto, Shinji Sakai, Stefan Kaufmann, Motomu Tanaka (2024). Hyperconfined bio-inspired Polymers in Integrative Flow-Through Systems for Highly Selective Removal of Heavy Metal Ions. Nature Communications, 15, 5824.