斜視は両眼の視線がずれいてる疾患です。複視が生じたり、遠近感がつかめなかったり、日常生活に支障をきたすことが多いですが、実際にどの程度の患者が存在して困っているのか、世界的に見ても全国調査を行った研究はなく、実際に行うのは非常に困難です。
宮田学 医学研究科講師、辻川明孝 同教授、田村寛 国際高等教育院教授、三宅正裕 医学部附属病院特定講師、木戸愛 同非常勤講師らのグループは、ほぼ全国民の病名等のデータが格納されているレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を使って、斜視の患者数を調べ、日本の人口統計から有病率を算出しました。有病率は2.154%(約50人に1人)で、年齢層別に見ると子供と高齢者で多く、二峰性を示しました。学校検診で発見され、手術により壮年期で減るものの、加齢で新たに発生すると考えられました。病型割合は、外斜視67.3%、内斜視26.0%、上下回旋斜視6.7%で、内斜視が最多である白人とは異なっていました。人種間の遺伝的な差異が一因である可能性が考えられます。さらに、子供と比べて大人では上下回旋斜視が多く(1.4%と10.2%)、加齢性の要素が示唆されました。全体像を把握することで斜視が国民病の1つであることが提起されました。
本研究成果は、2023年11月29日に、国際学術誌「American Journal of Ophthalmology」にオンライン掲載されました。
「日々の診療で多くの斜視患者さんの困難と向き合っていますが、どれくらいの患者さんがおられるのかは個人の診療のみでは分かりませんでした。NDBのデータを使うことで全体像を把握することができ、病型や年齢層に関しても納得できる結果となりました。現時点では根本的解決法は手術しかありませんが、京都大学眼科学教室が得意としていますゲノム解析やイメージング研究等を駆使して、新たな方法を模索していきたいと考えています。」
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.ajo.2023.11.022
【書誌情報】
Manabu Miyata, Ai Kido, Masahiro Miyake, Hiroshi Tamura, Takuro Kamei, Saori Wada, Hiroaki Ueshima, Kentaro Kawai, Shinya Nakao, Akinari Yamamoto, Kenji Suda, Eri Nakano, Miho Tagawa, Akitaka Tsujikawa (2024). Prevalence and incidence of strabismus by age group in Japan: A nationwide population-based cohort study. American Journal of Ophthalmology.