田財里奈 基礎物理学研究所助教、山川洋一 名古屋大学講師、紺谷浩 同教授の研究グループは、カゴメ格子構造の金属化合物で創発する新奇な多重量子相を予言し、かつ微小な外場により制御する理論を構築しました。
幾何学的フラストレーションを有する新種の超伝導体であるカゴメ格子金属AV3Sb5(A=Cs,Rb,K)では、ナノスケールの永久電流が流れる「ループ電流相」やダビデ星型パターンを伴う「電荷秩序」、回転対称性を破った「電子液晶相」など、新奇な量子相が共存して実現します。こうした多重量子相を自由に制御することができれば、デバイス応用をはじめとする可能性が一気に広がります。
本研究ではGinzburg-Landau自由エネルギー理論に基づき、磁場および一軸歪という「外場」を用いたカゴメ金属の多重量子相の制御理論を構築しました。本理論によると、カゴメ金属に微小な外場をかけることでループ電流相が顕著に増強します。その結果、いわば楽器の“アンサンブル”のように、電流・電荷・超伝導の3つの量子相が共存・競合するという、カゴメ金属の驚くべき実験事実を解明することができました。本理論提案は、カゴメ金属特有の量子相のみならず、高温超伝導体など様々な金属の量子相の外場制御を可能とするため、高い汎用性があります。
本研究成果は、2024年1月11日に、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」に掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2303476121
【書誌情報】
Rina Tazai, Youichi Yamakawa, Hiroshi Kontani (2024). Drastic magnetic-field-induced chiral current order and emergent current-bond-field interplay in kagome metals. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 121(3):e2303476121.